涙

な　｢泣かないよー｣と明るく笑う人の

み　見てる世界が言葉どおり

だ　｢大丈夫｣であるはずがないのに

小さな幸せ

ち　ちくちくと縫う　ひたすらに

い　糸は白　藍染めの布には白が映える

さ　刺し子は

な　並縫いをするだけだ　それでいて
　　様々な文様の生まれる不思議

し　幸せな時間だ

あ　あと少しで完成する

わ　〽我は海の子　白波の

せ　青海波　穏やかな波の文様

春爛漫

はる　｢春の朝｣や｢春暁｣を
　　　無意識につぶやき始めると、私は

らん　乱読したくなるのだ。春の本を。　
　　　本棚から｢桜の森の

まん　満開の下｣、｢桜の樹の下には｣、
　　　｢桜の園｣と、次々に取り出し
　　　床に置く。花が咲き乱れるよう　　
　　　に、本があふれる。

七色

な　七色のカビが私の体に生えている。
　　私は何故か観察している。黒いの、　
　　赤いの、ふわふわした白いの、
　　桃色、粉っぽい緑、青緑、
　　黄色いプツプツ。
　　カビは意外とカラフルで、白くて
　　ふわふわのはかわいくも見える。
　　けど、カビだしなー。
　　うーん。うーん。
　　
な　――ナイトメア。悪夢を見た。

い　いつまでもうじうじしてるから、

ろ　ろくな夢を見ないんだ。
　　カーテンを開ける。
　　とりあえずカビの生えた食パンは
　　捨てよう。

記憶

き　記憶容量が足りなくなってる。
　　僕のおじいちゃん。

お　重くなりすぎたんだ。
　　過去がたくさんたまったから。
　　生まれて70万時間くらい経過すると
　　人間はこうなるんだ。

く　クラウドに
　　上げはじめてるんだって。
　　大切な思い出全部。
　　クラウドっていうのは雲の上、
　　つまり天国ってことさ。
　　それで安心しておじいちゃんは
　　今のことも昔のことも、どんどん
　　忘れてしまうんだ、きっと。