#最初から決まっていた
#目が覚めるまでに
布団、廊下から見えるトイレ、時計と段ボールの机。
床は冷たく、扉は分厚い金属製で格子が着いてる。
外を眺めるのにも格子越しだ。
昼間なのに日差しもまともに入ってこない。
何も無い。
携帯も無ければ、テレビもない。
文字の通り何も無いのだ。
連絡手段は、刑務所の様に文通。
なんなら、部屋自体が留置所のようだ。
朝起こされ。
朝食をとり、服薬。
昼起こされ
昼食をとり、服薬。
夜起こされ
夕食をとり、服薬。
消灯前に起こされ、服薬。
時々目覚め、外を眺める。
土手を歩いてる人が見える。
外の世界は自由だ。
早く外へ出たい。何度願っただろう。
呼ばれる声が聞こえる。
いつの間にか寝ていたようだ。
薬の時間だろうか。はたまた食事の時間だろうか。
今日は何月の何日で、何曜日なのだろうか?
私は、ここに来て何日経過したのだろうか。
早く退院したい。
#病室
賑やかなしゃぎりの音が、春の宵に響き渡る。
今年もそんな時期がやってきたかぁ
なんて思いながら、夏に向けて身支度を始める。
最近は、子供たちの奏でるしゃぎりの音色が、蒸し暑い風に乗せて聴こえてくる。
今日から2日間は、隣町で花火大会が催される。
地元の祭りより一足先に、大好きな彼と夏を感じに行くのだ。
好きな人との夏祭りなんて、何十年ぶりだろう。
みんなも、花火を見に出かけてるのだろうか。
かすかに聴こえるしゃぎりの音を耳にしながら
そんなことを思った。
どんな服装でいこうか。
何を食べよう。
どんな屋台が出てるかな。
花火はどこで見よう。
私の夏の本番は、明日からだ。
#お祭り
庭付きの戸建て
宝くじの1等
新しい車
ボーナス
使いやすいフライパン
欲しいものは沢山ある。
なんなら、物欲しかないかもしれない。
けれども、「1番欲しいもの」と聞かれて頭に浮かぶのは
彼の心かもしれない。
好きだと言う気持ちはとても伝わるし、
とても大切にしてもらってる。
それなら充分では無いか、と思うだろう。
だが、全然足りない。満たされない。
理由は分かっているけど、解決できない。
乗り越えなければならない壁が、あまりにも大きすぎる。
簡単なようで難しい。
もしかしたら、難しいようで簡単なのかもしれない。
その難易度の曖昧さが、さらに拗らせているだろう。
乗り越えた時、「本当はとてもとても小さかったね」と
笑い合えるようになりたい。
#今一番欲しい物