雨は日暮れに降りだした。
もう秋だと云うのに空気は湿めっていて、
私の体をベタつかせている。
最近、気を張り詰めていたのではないか。
ふと、そんな気がしてせっかくなので、
公園で雨宿りをすることにした。
深い意味はなかった。
少し洒落た喫茶店でも良かったし、
油で汚れた中華店でも良かった。
たまたま近くに公園があって、
たまたま懐かしい気持ちになった。
ただ、それだけだった。
束の間の休息。
雨の音も、雨を弾く傘の音も。
水溜まりを走る、車の水しぶきも。
なんだか、久しぶりに聞いたような気がする。
また、明日がやってくる。
私は、どこか涼しげに。
されど強かに、公園を後にした。
扇形の丘には、静寂があった。
打たれまいと、想いを込めた投球に。
負けまいと、気合いを込めたスイングに。
互いに、力を込めた。ただ、それだけ。
結果は付随する。
投手が手を抜いたわけではない。
打者の運が良かったわけではない。
高い金属音が鳴った。
拳ほどの大きさの球は青い空に舞い上がり、
石ころよりも小さく見えた。
静寂の丘は、歓声と拍手に包まれた。
記憶の片隅には、気がつけば貴方が居た。
いつもは忘れているのに、ふと思い出せば
胸は温かく、そして少しさみしくなる。
まるで、夏の終わりを告げる風のように。
まるで、川を流れる一枚の枯葉のように。
顔も、名前も、どんな声かも忘れてしまった。
これからも記憶は、吹かれて、流れて、
遠く消えてしまうだろう。
また季節のように巡り会えたら。
どんなに嬉しいことだろう。
どんなに楽しいことだろう。
私が貴方を忘れる前に、
すきなことを、して。
すきなものを、たべて。
すきなばしょへ、むかう。
無数の自由意志と選択の先に、
貴方が立って居るのなら、
それを奇跡と呼べるだろうか。
犬ではなく、猫が好きであれば。
街ではなく、海が好きであれば。
夜ではなく、朝が好きであれば。
もう一度、貴方に出会えただろうか。