【あの夢のつづきを】
小さい頃夢見た事が、大人になったらこんなに難しいなんて知らなかった。
毎日毎日同じ事を繰り返して、生きているのに死んでいるような気分。
だから寝ている間だけは、小さい頃の夢を見る。その時だけは今とちがう生き生きとした夢を見ることが出来ていたから。
【手ぶくろ】
「あんた、手寒くないの?」
「別に寒くない」
「赤くなってるじゃん。ほら、貸してあげる」
「いや、お前こそ寒いだろ」
「じゃあ片方だけ貸すね」
「もう片方はどうすんだよ?」
「……ん」
「え」
「あんたと、手繋げばいいでしょ」
「……仕方ねぇなぁ」
【変わらないものはない】
最近お局さんが怒らなくなった。
何があったんだろうね、と休憩時間に同僚と話しているとお局さんの携帯が鳴った。
電話だったようで、そそくさとその場を後にする。
私と同僚はこっそりと後をつけていくと、電話をしているお局さんがいた。
「うん、うん。今日来るのね、分かった。ふふ、待ってるね」
頬を赤らめて、柔らかい笑みを浮かべて、いつもと違う声色を出す。
まるでそれは恋のようだ。
電話が終わったお局さんと目があい、怒られる覚悟で聞いてみると「……最近、学生時代の同級生に告白されたの」と顔を赤くさせて言ってきた。本当に恋だった。
「また話聞いてもらってもいい?」
もちろん頷いた。幸せのお裾分けをしてもらった気分だ。
気持ち一つで変わってしまうこともあるんだなぁと思った。
【クリスマスの過ごし方】
クリスマスクリスマスと言うけれど、平日である。
今日も今日とて仕事だ。なんなら残業だ。
帰っても一人だし、特にプレゼントをあげるような人もいないし自分にとっては「いつもの日常」である。
やっと終わったのが21時を少し過ぎた頃だった。
コンビニで夕飯でも買っていこうと、いつも寄るコンビニへ向かった。
「いらっしゃいませー」
名前は覚えていないけど、何度も見たことある店員が出迎える。意外と人はあまりいなかった。今頃団欒をしているのだろう。
夕飯と飲み物を買って、ふらっと寄ったのはスイーツのコーナー。新しいチョコ味のシュークリームが出ている。
チョコ味の物はわりと好きなので、ケーキの代わりにそれを籠にいれた。
「お会計失礼しまーす」
「あ、レジ袋お願いします」
「はーい」
値段を言いながら袋に詰めていく店員。財布を出してどのくらいになるかな、と見ていると「あ」と小さく声が聞こえた。
店員を見ると声が聞こえたと分かったようで、すいません、と言った。
「これ、美味しかったなーと思ったらつい声が出ちゃって」
シュークリームを指しながら照れたように笑っていた。
それを見てついつられて笑ってしまい、「それは楽しみです」と答えた。
会計が終わると店員が、
「お仕事お疲れ様でした」
と言ってきた。
いつもなら疲れきってあ、はいとお辞儀だけしていただろう。何故か今日はいつもと違っていた。
「お互い様です。お疲れ様です」
そう、言っていた。
いつもと変わらない平日だったのに、いつもは無いイレギュラーだっただからだろうか。
今日はクリスマスだから、と自分を納得させることにしたのだった。
【イブの夜】
「ねえママ。どうしてクリスマスの日があるのに、クリスマスイブってあるの?」
「うーん、そうねぇ……。例えば明日遠足ですって言われたら、前の日に準備したりしない?」
「する!」
「クリスマスも同じだと思うの。本番のクリスマスの前に色々ツリーを飾ったり、ご馳走の準備をするでしょう?それと同じだと思うわ」
「なるほど、そっか!」
パパ、娘ちゃんは適当に誤魔化したから、早く目的のブツ(プレゼント)を買ってきて!と心の中で叫ぶ夜なのだった。