─── 向かい合わせ ───
私達は二人で一人だった
一つの文明が誕生し滅びるのを何度も見てきた
それほど果てしなく長い時を一緒に過ごした
二人でずっと守ってきた均衡
何故それを破ろうとするの
今になってどうして
理由なんか聞きたくない
知りたくもない
どうしても破ると言うなら
この場を離れると言うのなら
私の手で壊してあげる
血塗れで動かなくなった片割れ
それを見つめながら
同じく動かず倒れる血塗れの片割れ
二人一緒に永遠に
決して破られる事のない均衡を
─── やるせない気持ち ───
後悔はしてない
懺悔もしない
神は私を裁けばいい
地獄へ堕ちる
上等だ
その覚悟もなしにやるものか
怖いものなど何もない
それなのにどうして
涙が頬をつたう
心に吹くこの風は
無意識に感じている贖罪なのだろうか
─── 海へ ───
どうしてこんなに息苦しいんだ
この世界は生きづらい
もういいや
全てを捨てて帰ろう
私が呼吸できる場所へ
光の届かない真っ暗な世界
深く深く沈んでいきながら
めいいっぱい深呼吸する
身体中に酸素じゃ補えないものが
満ち溢れてくる
─── 裏返し ───
狂っているのは世界の方で
僕の頭は正常なんだ
そうだよね先生
いつもの薬もいつもの検査も
僕が間違ってない証明をする為なんだよね
先生だけなんだ
僕を信じて正当化してくれているのは
お願いだから
僕の存在を否定しないで
お願いだから
私達を消さないで
─── 鳥のように ───
いつからかここに居た
始まりの記憶はあまりない
いつも綺麗に着飾らされて
時折ふと窓の外を眺めていた
そのたびに聞かれた
外の世界へ行きたいかと
私の答えはいつも同じ
黙って首を横に振る
そんなこと考えなかった
考えてはいけないと思ってた
そして何事もなかったように
また君へ話しかける
幾つもの季節が巡ったある日
誰かが私を連れ出しに来た
いつからかここに居た
最後の記憶ははっきりある
そこにはもう私は居ない