NoName

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5/2/2023, 5:48:08 AM

色のない世界。
全て白と黒のモノクロでしかない。
空も雲も地面も人も物も全部全部。
それなのに、あなただけは違った。
あか、あお、きいろ、みどり。
あなたは色んな色を持っていた。
あなただけはカラフルだった。
そして、あなたが触れたものには色が宿る。
パッと花を咲かせるみたいに、たくさんの色を作っていく。

でもあなたを見ているうちに気付いたんだ。
あなたが好きなものに触れた時、それはあか色に変わるんだって。
私は何色になるんだろう。
あなたの色に染まりたいのに、触れられたくない。
だから私は今日も明日も白いまま。

4/20/2023, 8:31:33 PM

何もいらない。
だからどうか、あの人を返してください。
私には、あの人しか居ないの。
ゴミみたいに薄汚れた私を拾って育ててくれた人。温かなお湯が出るお風呂に入れてくれた人。残飯じゃないご飯を食べさせてくれた人。

あの人の他に欲しいものなど私にはないの。

いつか恩返しができると思ってたのに、こんなのあんまりじゃないか。
神様、お願いだからあの人を連れて行くなら私を連れて行って。
あの人がいない世界に未練も興味もないの。
だから、お願い神様。

青白い顔で真っ白なベッドに横たわる彼の手を握る。
大きくて優しかった手が、今はこんなにも儚く細い。いつもいつも私の頭を撫でてくれていた手だったのに。じわりと涙が浮かぶ。泣かないって決めてたのに。

ねえ、神様。
どうしたらこの人を助けてくれる?
私が代わりに死ねばいいならすぐにでも死ぬから。

真っ赤な林檎のそばに置いてある果物ナイフを掴み、首筋に当てる。少し力を込めるとぷつ、と切先が皮膚に食い込み生暖かいモノが流れた。目を閉じてさらに力を込める。勢いをつけて一息に切り裂こうとした瞬間、儚い手が私の腕を掴んだ。
驚いて目を開けると、彼が悲しそうな顔をして首を横に振っていた。どうして止めるのだろう。私はあなたさえいれば他には何も要らないのに。
あなたは私を置いていってしまうのに。