雨の香り、涙の跡
ほのかにする、この雨独特の匂い
昔からこの匂いが大嫌いだった
湿気でうねる髪も
もわっとする空気も
雨で濡れる制服も
全部、全部、大嫌いだった
でも、今は、人生の中で一番雨に感謝してる
だって、この醜い涙を、誰にも知られることがないから
頬が濡れていても、雨がカモフラージュしてくれる
あれ?でもおかしいな、
涙のあとは、カモフラージュするものがないや…
腫れて赤くなった目を見れば、誰だって気づいちゃう
それなら、腫れが引くまで、君と過ごすのもいいかもね
『運命の人とは赤い糸で結ばれているんだよ!』
なんて言ったら、あなたはどう思うかしら?
んなバカなって、呆れたように笑うかな
笑いながら肯定してくれるかな
それとも
『じゃあ僕たちも、赤い糸で繋がってるんだね』
なーんて、言ってくれるのかな?
『届かないのに…』
何年も、何年も、
わたしの中で積もり続けた、この想い
ときには、つらくて、捨ててしまいそうになった
そしてときには、言葉に出したくなってしまった
それでも、今日まで大事に、大事にしまっていた
だって、初めての感情だったから
でも、もし、この想いを伝えることを許されるのなら…
わたしは精一杯伝えたい
届かないとわかっていても、
マグカップ
1日が終わり、疲れがたまったわたしには
ひとときの幸せがある
それは、冷房のついた部屋で
お気に入りのマグカップで温かい紅茶を飲むこと
今日あった全ての嫌なことを忘れさせてくれる
わたしの、大事な時間
あなたからもらったマグカップを使うと、
余計に疲れが飛んでいく
もしも君が、生き返るのなら
僕は、なんでも差し出す
この命さえも
※ ※ ※ ※
『ねえ、もしも…、わたしが生まれ変わったら
また恋人にしてくれる?』
そう言って、生気のない顔で力なく笑った君は
もう長くは生きられないと、医者から聞いたらしい
僕は、どんどん弱っていく君を
ただ見つめることしかできなった
君が苦しんでいるのに…、僕はなにもしてあげれれない
だんだんと…痩せていく、
歩くこともできない、
目を覚まさない日もあった
そのたびに、死んだんじゃないかって、怖くなって
素人から見ていても、彼女がもう長くはないことは
わかりきっていた
※ ※ ※ ※
彼女が死んだあとは…、よく覚えていない
お葬式の記憶さえも危うい
でも、棺桶に入っていた君の顔だけが鮮明に思い出せる
そのたびに、涙が溢れ、悲しみに暮れていた
もしも、また君が僕の隣で、笑ってくれるのなら
もしも、君とこれからも過ごすことを許させるのなら
いや、それは贅沢な願いだ
もしも、君がまた、
友人と笑い合って、家族と過ごせるときがくるのなら…
僕は、喜んでこの命さえも、差し出す
それは、ただの自己満足に過ぎないのだろうか