欲望。
欲を言うと、友達が欲しい。ただ、ありのままの心を許せるような、隣にいて安心するような、言葉につまることの無いような、友人が欲しい。
欲を言うと、学生で居たい。ただ、与えられた課題をこなし、テストで一喜一憂するような、顔を付き合わすだけで協力が始まる班活動のような、隅っこで楽しむ人間観察のような、時間が欲しい。
私は今日、卒業した。君は明日、卒業する。あなたは今日、受験の合否を聞いた。僕は明日、仕事に行く。
突然、宙に足が浮いたような、地に立っていないかのような、孤独のてっぺんのような、不快で、耳の痛い感覚に襲われる。これは多分、日差しの強い外界に投げ出されたり、花粉で打ちのめされた感覚とよく似ている。
欲望のまま進みたいが、欲望が見えず、感情ばかりが無くなっていくのは何故なのだろう。
誰のせいかと聴けば、多分、コロナのせいと思う。
遠くの街へ。
最近、1人だけで遠くの街へ行く夢を見る。...なんて、繊細で感傷的な脳みそは持ち合わせていないし、この先も手に入れる予定は無い。でも、夢なんてものではなく、本当にあと少しで、私は旅立つ。新しい会社に勤め、同期や上司と学んでゆく未来だとか、進学を決めて、必要以上に胸を強ばらせて待つ結果発表だとかのせいで、手からこぼれ落ちてゆくものだけに集中している時間など与えられていない。
胃がひっくり返っても、目が飛び出そうなくらい熱くなっても、爪がくい込んで血が垂れても、掻きむしった手から髪が落ちても、日常は止まらない。
たとえあなたが、私に一つの興味がなくても、たとえ君が、こちらを振り返らなくとも、ただ、一方的に、寂しい。
この寂しさを埋めるには、動き出すしかないと知っているのに。
次の街は、花粉が少ないといいな。
現実逃避。
そろそろ、アレが終わる。次は、コレが始まる。今日も、このまま続く。明日は、遂に結果が出る。
こんな毎日を送っていると、とぎどき逃げたくなる時がある。でもそれは、いくら順調に進むプロジェクトでも、目を開けられないような事実の前でも、同じように起こる衝動だ。だからといって、どれだけ上手く逃げても、身体の奥底の端の隅に、胸を締めつける塊が残る。
今、私の前には、カエルの置物がある。でもそれは、何故か歪んでいるし、光っている。指し示す未来は現実かもしない。
今、あなたの前には、スマホの画面が広がっている。それによって何か心を動かしたいとでも思っている。でも本物の応えなど得られないと、奥底では分かっている。
逃げてもいいなんて綺麗事は必要じゃない。帰ってくる場所が欲しいんだ。
ひとつ深呼吸を。
太陽のような。
太陽のような笑顔なんてよく言うけど、そんなに底抜けに明るいと、人間生きて行けないと思う。さざ波の立つような心とか、凍えそうな胸の奥とか、美しさを見て微笑む余裕とか。そういういくつもの心がないと、そんな笑顔は出ないのではないか。
でも、きっと、そんな心なんか無い方が、太陽のような屈託のない、悪意や敵意なんてない意味での笑顔が浮かぶのではないだろうか。
では、悪意はないのか。
難しい問いかけだ。
0からの。
今はもう、ゼロなんてものは無い。何をするのだって、雑念のように、何かしらの感情やら、知識やら、常識やらが混じってくる。だから、0なんてものは感じられないし、1になるまでに時間がかかる。
でも、出発ならある。新学期に新たな友達を作ろうともがく君だって、スーツに身を包み歩き出すあなただって、不安をまとって顔が強ばる私だって、新しいことに挑戦しようと頑張っている。0のように見える、土台の上で。
でも、だからこそ、大丈夫。それは0じゃなくて、ただの始まりだから。0を1にするような難しさは感じなくていい。1をどこまで増やせるかに、挑戦していこうじゃないか。その方がきっと、楽しいはずだから。
0からの、じゃなくて、1からの君で。