ただ、少年は必死に走った。
最初はトンボを追いかけて。
その次は、川を目指して。
そして気付いたら山の頂上を目指していた。
少年は毎日、退屈から逃げるように走った。
でも少年は退屈の反対をまだ知らない。
「こんな話してごめんね。」
自分はどう言えばよかったのだろう。
聞いて欲しかっただけかもしれない。
それでも何かを言わないといけなかった。
でも、結局自分は何も言わなかった。
いつも通り。
それから、彼女は引っ越してしまった。
彼はお気に入りの半袖シャツを着なくなった。
服が破れるのを恐れて、大事な時に着ると決めたから。
久しぶりに着たのは友達と遊ぶときだった。
子供の頃の彼は全ての半袖の服がお気に入りだった。
そんな彼は、夏休みのほぼ全てを半袖で友達と過ごした。
毎日が大事な日だったから。
天国と地獄。
( 俺は地獄に墜ちたい。 )
破滅に何かを求める彼はそう思ってる。
天国なんて、つまらない場所だと。
彼にとっては平和と愛が毒だから。
でも彼の命運は天国だ。
今まで罪を犯したことは無いし、これからも無い。
彼は結局、破滅を星に願いながら何かをするわけではない。
彼は地獄に墜ちても良いと思える事をしたいと思ってる。
それが何かを分かってないくせに。
縁側に座って叔父が本を読んでいる。
叔父は本が好きな訳ではない。
でも、夏目漱石を読むから子供の頃は本が好きだと思っていた。
叔父は、三行読んでは外を眺める事を繰り返している。
でも、雨が降り始めたら本を閉じてしまった。
雨の音を聞いているのか蛙の音を聞いている。
叔父はしばらくすると傘を2本持って出掛けて行った。
なんだか嬉しそうに。
それからは、いつまでも降り止まない、雨。
叔父は傘と本を閉じて縁側から雨を眺めてる。