いつも書いている日記に
赤ペンで印がつけたあった
それは、昨日のバーベキューのことだった
母さんがつけたのかなって
ほっといたけど
友達の家に泊まったときも
昨日の日記に印がつけてあった
幼い頃のわたしは
大して気にしていなかった
大きくなって
結婚して
子供もできた頃
ふとその日記のことを
思い出した
子にそのことを話すと
「それ、僕の日記と同じじゃん」
と言って、日記を見せてきた
すると同じく印がつけてあった
こんなことをする妖はいただろうか
座敷わらしだといいなと
子供心を呼び起こしながら
そんなことを
思ったのだった。
いつも通りの朝がきた
8時過ぎの電車に早足で乗った
車内はいつもより空いていたと思う
駅をふたつほど過ぎたころ
いつもの子が私と同じく
早足で乗ってきた
偶然かもしれないけど
いつも向かい合わせの席に乗って
いつもと同じ朝の時間を過ごす
片耳につけたイヤホンの音に
耳を傾けながら
ちらりと前を向くと
あの子と目が合ってしまった
いつもは逸らすのに
今日はなぜか逸らせなかった
線路の繋ぎ目をいくつか通ったあと
なにか話そうとしたが
あの子も話そうとしたのか
口籠もってしまった
すると
「......いつも一緒なのに笑っちゃいますね」
夏風にゆれる風鈴のような声だった。
そのままお互いに何を話したのか
霞む記憶を掘り起こそうとしても
早朝の朝日が彩った
あの子の眩しい笑顔しか
思い出せなかった
向かい合い続けたあの時に
わたしは今も
夏の幻想を抱いている。
言葉にしたいことの為に
音楽を奏でたい。けど、
感じることに対しても
奏でたい。
世界は好きさ
周りが嫌いなだけ
世界が変わると面白いことが起きる!
周りが変わると気を使わないといけなくなる
好きさ
嫌いだね
「ねぇねぇあのVTuberコラボするんだって!」
「仕様書また変わんのかよ、クソダリィな」
見えてるものなんてこんなもの
嫌い嫌い、だけど、
このクソッタレな世界が好きさ。
2000年、あの時代は私たち若者が、
影しか追うことができなかった時代である。
1995年、2002年。この世には稀に
空白の時代が現れる。
その空白は若者には刺激が強すぎる。
私は知らない。その時いなかったから。
私はわからない。
影しか追うことができないから。
≪音を追うもの≫
「かっけぇな」
「だろ? これが2000年代の光だよ」
高校性が二人、
夏休みが始まったばかりというのに
変わらず校舎の一角にたむろするのは
習慣なのだろうか。
「なんてバンドだっけ?」
「それがわかんねぇのよ。レコードは発表するけど、いつもバンド名が書いてないのよ。
だから【影】って呼ばれてる」
「影って...結構ハードなロックだったが、暗いイメージなんてどこにも感じなかったぞ」
「まぁ影ってのはそのバンドの影しか追えないからだろうよ、とっくの昔に解散しちまってるし」
その日は警報が出るくらい暑い日だった。二人は駄菓子屋で買ったラムネを飲んでいた。
空には立派な入道雲、道路にはびこる陽炎たち。野球部の掛け声だけが清々しく耳を通り抜ける。
「こんなアッツイ日でも野球部は通常運転なんだな」
「そりゃ当たり前だろうよ、去年甲子園一歩手前まで行ったんだからな」
「それもそうか、熱血人間たちに敬礼!」
『敬礼!』
二人はそう言って、三階の音楽室へと向かった。
そしてしばらくして鉄線を掻き鳴らす音が
聞こえてきた。
しかし、この青い音も長くは続かない。
校舎に響くのは蝉の音と、
ラムネのビー玉が転がる音だけだった。