入学祝いに買ってもらった、真っ赤な自転車。
ちりんちりんとベルを鳴らして、カンカン照りの坂道を下る。
首筋を流れる汗に風が当たって、ひんやりと気持ち良い。
赤信号でキュッと止まって、前カゴから水筒を取り出して水分補給。
青に変わった信号に慌てて水筒を前カゴに戻すとハンドルを握りしめ、力いっぱいペダルを踏み込んで、発進。
陽炎に揺らめく並木道を目一杯ペダルを漕いで駆け抜けた。
コンビニまで、あと1キロ!
テーマ「この道の先に」
横殴りの雨ってホントに真横から降ってんだなぁ。
なんて、馬鹿みたいなことを考えながら、リビングの窓ガラスを大量の雨水が流れ落ちていく様を見た。
テーブルに置いたスマホからは、警報の通知がひっきりなしに鳴って、さっきから全然仕事が捗らない。
くあっ、と大きく欠伸をしてパソコンを閉じた。
もう明日やればいいや、と椅子の背もたれにデロ〜ンと身を預けて脇腹を掻く。
脱げかけたスリッパをパタパタと揺らして、心做しかさっきよりも勢いが増した気がする風雨に耳を傾けた。
テーマ「窓越しに見えるのは」
素麺の中の色付き一本。
掬って食べるのは、いつも君。
味なんて、白いのと変わらないのに。
君が美味しそうに食べるから。
わざと避けて白を掬う。
麺つゆに浸したら味なんてみんな同じだもの。
ふふふ、と笑って。
真赤なサクランボを捕まえようと必死な君を見入った。
テーマ「赤い糸」
空にプカプカと浮かぶ大きな積乱雲を見て「ラ○ュタだ!」と友達と巫山戯合ったのは、もう何十年も前のこと。
永遠とも思えるような子供の日々は過ぎ去り。
あっという間に私は大きくなって、今や日々、その他大勢の大人と同様に仕事に追われている身。
今年も既に半分が終わって、あともう少し経てば学校は夏休みに入るだろう。
少しだけ、あの夏の日に浸りたくなって、小さな四角い窓の外、雲一つない青空を見つめた。
テーマ「入道雲」
ぱんっぱかぱぁ〜ん、というアホ丸出しのSEが突然自室に鳴り響いたと思った瞬間、見覚えのある光輪が宙に出現した。
「おめでとーございますー、アナタはうん百人目のベリーハッピー?ラッキー?な御方で御座います!!」
クルクル回る光輪の中央から、ヌルっと現れたのは自称神様、の補佐をしている天使さん。
白い長髪をウネウネと―なんかそういう力でやってるらしい―させながら、年寄り臭い掛け声一つ、ズルリっと光輪から引っ掛かっていたらしい下半身を抜いた。
「ややっ?!いやぁ、アナタでしたかー!先日は主が大変お世話になりましてー、どうもですー!」
中性的で美しい姿形が台無しの、キンキン甲高い声にゆるーい口調。
「本日は幸運なアナタの願いを一つだけ叶えましょうー、というキャンペーンでやってまいりましたんですー!」
名前は、……何だったかな? まあ、いいか天使で。
「早速なんですがー、何でもいいんで何か願い事を言ってくれますー?ホントー何でもいいですよー?あっ、異世界転生いっときます?外界で凄く流行ってるって聞きましたよー!」
「今すぐ帰ってくれ!ハウス!!」
そんなあ〜、とションボリ顔をしながら天使はフワッと消えていった。
テーマ「ここではないどこか」