数日前に使い切った五年連用の手帳を最初の方から見ていく。
テープで留められた飛行機のチケットと売店で買ったサンドイッチのレシート。
若干似ている似顔絵の横に君の名刺、この頃はまだ仕事でたまに顔を合わせる人という間柄で、まさか出会いから一年足らずで一緒に暮らすことになるとは思いもしなかった。
名前と共に描かれた同僚の似顔絵、サラッと書かれた第一印象に「第一印象なんて当てにならないなあ」と、クスクス笑う。
色んなことがあったな、と懐かしく思いながら頁を捲っていく。
辛いことも、楽しいことも、嬉しいことも、悲しいことも。
どれもこれも、たった数年前の出来事なのに、随分昔の事のように感じられた。
それだけ毎日が濃密だからだろう、仕事も遊びも。
君との生活も。
テーマ「20歳」
ソファでうたた寝をしている君の頬に睫毛が一本。
クルンと綺麗にカールして、照明の淡い光にキラキラ輝く毛先。
起こさないように、そっと指を伸ばしながら。
ずっと君が笑顔でいられますように、と心の中で願って。
しっとりスベスベの君のほっぺたから睫毛を抓みとった。
テーマ「三日月」
観葉植物を育てていたりすると、好きな植物のことを聞かれることがある。
とても困る。
特に「一番好きな花は?」と聞かれると、返答は後日で良いか?と返したくなる。
一番なんて、とてもじゃないけど選べない。
キングプロテア、月下美人、鳳凰木、ヒスイカズラ、ヒオウギソウにヒメツルソバ。
そこらへんの雑草から植物園や花屋にしか無い花まで、なんだって好きだ。
その中から、たったの一つだけなんて……無理、ツライ。
とりあえず万人受けしそうな花の名前を言うけどね。
パッションフルーツとか。
テーマ「色とりどり」
あっという間に、私のお正月は終わり。
二週間ぶりのYシャツ、ヒヤッと冷たい袖に腕を通すと、ゆるふわ正月気分だった脳が徐々に仕事モードになっていくのを感じた。
スーツは男の戦闘服。
なんて言葉があったよね、と思い出しながらYシャツのボタンをプチプチと閉めて、お気に入りの柄のネクタイをクローゼットから取り出すとセミウィンザーノットで手早く結んだ。
ソックスとスラックスを履いて、スリッパをパタパタ言わせながら、リビングのドアを開ければ味噌汁の良い匂い。
テーブルにきちんと並べられた二人分の朝食、お盆を持ったままの君が「おはよう」と笑いかけてくる。
しあわせ。
幸せだなあ、ホカホカと湯気の立つ味噌汁のお椀に口をつけながら、私は一笑した。
テーマ「君と一緒に」
私は「できた大人」でも「潔い人」でもないから。
もしも君に、私よりも大切な人が出来てしまったら。
きっと、私は「さようなら」が出来ないから。
君を閉じ込めて、逃げてしまわないように縛りつけて。
私だけのものに、私のためだけに。
君のきれいな手足を、両目を潰してしまう。
、かもしれない。
わからない、その時にならないと。
もしかしたら、本当に「その時」になったら。
私は、君の幸せを祝えるだろうか。
テーマ「幸せとは」