しじま

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9/4/2023, 3:49:57 PM


 沈んでいく、暗く冷たい水底へ。

水面に煌めく月光は、もはや手を伸ばしたところで届きはしない。

それでも、伸ばそうとした腕は鉛のように重くピクリとも動かない。

こぽり、こぽり、と薄く開いた口から出る小さな泡が、くるくると螺旋を描きながら水面へ昇っていく。

 落ちていく、静かな海の底へと。

肺の中の空気を全て吐き出して、たくさんの泡が昇っていくのを目を細めて見つめる。

不思議と、苦しさは感じなかった。

粉雪のように舞い降りるマリンスノーが美しかった。

 抱き上げられる感覚に、ぼんやりと目を開ければ君の浅黒い顔が目の前にあった。

ああ、そうだ、デートしてたんだった。

寝起きのたどたどしい口で君の名を呼ぶと、ゆったりとした優しい手つきで頭を、背を撫でられる。

温かい大きな手、甘い薔薇の薫りのする手にあやされて、再び訪れた睡魔に抗うことなく目を閉じた。

テーマ「きらめき」

9/2/2023, 4:59:47 PM

隣る人となれ。

凍てついた心を解かす、温かな火であれ。

暗い夜道を優しく照らす灯となれ。

大切な者を癒す、隣る人であれ。

テーマ「心の灯火」

9/1/2023, 1:33:34 PM

 かたんかたんと揺れる電車の中、ひっきりなしに鳴るスマホ。

わかってる、100パー君からのメッセージだ。

約束の時間になっても来ないから心配しているのか、それとも怒っているのか。

怒ってるんだろなあ、と君とお揃いのカバーの着いたスマホのボタンを撫でた。

……見る勇気がない。

あと、二駅で待ち合わせの場所に着く。

今日に限ってノロノロと動く電車に、ヤキモキしながら手摺りに持たれて、窓の外を走る電線を眺めた。

テーマ「開けないLINE」

8/31/2023, 5:33:56 PM

 背中に翼なんて生えてないし、魔法だって使えない。

勉強だって運動だって人並みか、それ以下。

趣味とか特技とか、他人に自慢できるようなモノもないし、そもそもお喋りする友達すら居ない。

バイトだって長続きしないでコロコロ変えてて、近場ではもう見つかんなくなってきて隣の県の求人を見てる。

 なんで、どうして、こんなことになっちゃったんだか。

夕飯時に母がボヤいた、そんなの僕が一番知りたいよ。ほんと。

 あーあ、あの頃に戻れたらなあ。

なんて、思えるような「思い出」も無い。

お先真っ暗な僕の余生、きっとこのまま生き地獄。

テーマ「不完全な僕」

8/30/2023, 4:20:14 PM

 自粛期間中に何故か流行ったあの歌。

リビングのソファに座り、パソコンとにらめっこしている君の目の前で、何とはなしにハミングしてみる。

すぐに君は「懐かしいな」とクスクス笑いながら鼻歌を歌い出す。

アナログ時計の秒針の音をメトロノーム替わりに、ハミングと鼻歌で上手い具合にハモってみたりして。

あの散々な日々を今、こうやって二人で笑いあうことが出来る幸せを噛み締めながら、サビに突入。

キャッチーな最後のあのフレーズはユニゾンして、歌い終わった後で二人してカラカラと笑った。

ホントなんで流行ったんだ、あの曲、と。

テーマ「香水」

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