沈んでいく、暗く冷たい水底へ。
水面に煌めく月光は、もはや手を伸ばしたところで届きはしない。
それでも、伸ばそうとした腕は鉛のように重くピクリとも動かない。
こぽり、こぽり、と薄く開いた口から出る小さな泡が、くるくると螺旋を描きながら水面へ昇っていく。
落ちていく、静かな海の底へと。
肺の中の空気を全て吐き出して、たくさんの泡が昇っていくのを目を細めて見つめる。
不思議と、苦しさは感じなかった。
粉雪のように舞い降りるマリンスノーが美しかった。
抱き上げられる感覚に、ぼんやりと目を開ければ君の浅黒い顔が目の前にあった。
ああ、そうだ、デートしてたんだった。
寝起きのたどたどしい口で君の名を呼ぶと、ゆったりとした優しい手つきで頭を、背を撫でられる。
温かい大きな手、甘い薔薇の薫りのする手にあやされて、再び訪れた睡魔に抗うことなく目を閉じた。
テーマ「きらめき」
9/4/2023, 3:49:57 PM