なにものにも染まらない黒。
光さえ呑み込む、高潔な黒に憧れた。
伸ばしても手の届かない黒に。
テーマ「好きな色」
あなたがいたから、私は死を選びました。
たくさん考えました。
朝も、昼も、夜も、夢の中でも。
たくさん泣きました。
父の泣く顔を初めて見ました。
ちょっとブサイクで、笑ってしまって母に怒られました。
夫も泣いていました。
しょうがないです、申し訳ないです。
ずっと一緒に居よう、という約束を破ってしまうから。 ごめんなさい。
お父さん、お母さん、ごめんなさい。
さようなら。
あなたがいたから、私は死を選びました。
ありがとう、元気に生まれてきてくれて。
みんなのこと、お願いね。
テーマ「あなたがいたから」
たっぷり水の入ったバケツと一昨日辺りの新聞紙を持って、ベランダに出た。
曇天、むっしりとした梅雨時らしい風に少々気が滅入る。
洗濯物は乾かないし、髪の毛は纏まらないし、紫外線が意外と強いし。
梅雨はあんまり好きじゃないな。
はあ、とため息を吐きながら、新聞紙を一枚ずつクシャクシャにしてバケツの中の水に漬ける。
ぐしょぐしょになった新聞紙を掴んで、窓ガラスをゴシゴシと拭く。
鱗状の薄茶色の汚れが落ちていき、ガラス面に残った水気が室内の様子を滲ませていく。
キッチンで何やら作業をしている君がモニュモニュと動いていて、思わずクスッと笑ってしまう。
あんまり好きじゃない梅雨でも、君が隣にいれば、やり過ごせる。
ハア、と窓ガラスに息を吹きかけ曇らせて。
キュキュッと、手早く描いた相合傘に二人の名前を入れた。
テーマ「相合傘」
くるくる、くるくる。
紅葉の種が一つ、二つ、と落ちてきた。
オルゴールの巻きネジのようなカタチ。
陽気な風に合わせて踊る。
くるくる、ひらひら。
思わず目で追ってしまう。
テーマ「落下」
姥捨山が成功した世界。
重税、なんて言葉が可愛く思えるだろう。
自分達がいかに恵まれた環境にいたか、先人の築き上げた財産を貪り尽くした意地汚いシロアリ共だったということを思い知らされるだろう。
枯れっ葉のように命は軽い、ということに気付くだろう。
創造主という幻想は朽ち果てて、道徳という言葉は死語に、浅ましい弱肉強食の世界になるだろう。
厳格な血統管理、繁殖計画により人口は現在の七割程に抑えられるだろう。
姥捨山、みんなが望んだ世界だろう。
テーマ「未来」