何でもかんでも否定する奴がいた。
諦めろ、お前じゃムリ、時間のムダ。
何時も何時も、そういうネガティブなことを言う奴だ。皆から嫌われていた。
しかし、ムカつくことに奴は教頭。
取り巻きみたいな先生達は、言い返せないようで役立たず。
運動会の日、奴が倒れた。
眼瞼下垂気味な目を見開き、口からはブクブク泡を吐き散らして、魚みたいにビチビチと跳ねている。
先生達が右往左往して、保護者はザワザワ。
低学年の子は泣いてる子も居たが、高学年はお祭り騒ぎ。
諦めろ、時間のムダだ。
教頭の口癖を大合唱、思わず先生達の動きが止まる。
知らない大人が止めろと言うが日頃の恨みだ、誰も聞く耳持たず声量が増していく。
救急車が到着したときには教頭は痛んだ豚肉みたいな色になってた。
いつものお茶に毒が入ってたんだってさ。
いったい誰が入れたんだろうね。
テーマ「誰にも言えない秘密」
さくり、さくり、と3ミリ厚のバルサ材をナイフで丁寧に切っていく。
切り過ぎないように、割ってしまわないように慎重に。
緩やかな曲線を切り終えて、詰めていた息をふぅ、と吐いた。
ようやく一枚切り出せた。
作っているのはミニチュアの飾り棚。
完成したら既に作ってある小さな本や置物を飾って、リビングの棚の一区画に設けたドールハウスに設置する予定だ。
一枚切れたら後は早い、サクサクと必要な数を切り出して研磨、ボンドで接着する。
だいぶ端折ったけど完成。
色にこだわりは無いのでフローリング用の色付きニスをササッと塗った。
リビングのドールハウスの空いているスペースに設置して眺める。
ベッドやテーブルにイス、本棚、飾り棚と一通りの家具は作った。
次は何を作ろうか、心弾ませながら自室へと戻っていった。
テーマ「狭い部屋」
布団の中でパチリと目を開けた。
真っ暗な室内、まだ朝は遠いようだ。
何だろな、と思っていたら部屋のタンスがカタカタ鳴った。
地震だ。 ゆら〜りゆらりと揺りかごのように数秒揺れて、すん……と収まった。
胸のドキドキを治める為、枕元の水を一口飲み、ハアと息を吐く。
手元のスマホで地震情報を確認して、大したことないようだと一安心。
……何だか目が冴えてしまったのでそのままスマホいじる。
前日のバラエティのコタツ記事、さっきの地震のニュース、外国のほっこり動物ニュース。
いい感じに睡魔がやってきたようで、大きな欠伸が出た。よし、寝るかな。
寝る前に時間を確認しているとニュースの通知が着る。
俳優の結婚速報。
ファンクラブに入る位に大好きな俳優さんだった。 うそだろ。
睡魔は何処かにぶっ飛んでいった。
テーマ「失恋」
散歩中の犬が撒かれていた毒餌を食べて死んだ、というニュースが流れるたびに疑問に思う。
何故、口輪をしないのか。
100%防げる訳ではないが、誤食する割合を減らすことが出来るというのに。
理解不能、なので犬飼いの同僚に聞いてみた。
何故、散歩中に口輪を装着しないのか。
即答、虐待してるみたいで可哀想だから。
失笑する、可哀想だって。
次いで、口輪をしていると映えないから。
口輪を薦めると、ウチは躾をしっかりしているので大丈夫です、と半笑いの同僚。
もし毒餌食って死んでも、また買えば良いもんな。
どうせ、量産品なんだろ。
そう吐き捨てると、同僚は怒って自分の席に戻っていった。
後日、ウチの子ですと見せてもらった画像には、紀州っぽい真っ白い雑種犬が一頭、両脇に小さな白い羽の付いた口輪を装着していた。
ああ、よかった、かわいそうな犬が一頭減ったようだ。
テーマ「正直」
しとしと雨の降る夜道、会社からの帰り道。
湿った空気に混じって、甘酸っぱい香りが何処からか漂ってきた。
どこか懐かしいその香り、何の匂いだったかと記憶を辿る。
遠い昔、母が作っていた。
赤いホーロー鍋の中身を木べらでかき混ぜて、キッチンには、その甘酸っぱい匂いが充満していた。
トロリとした琥珀色、口いっぱいに広がる甘酸っぱい味にほっぺたがキュンとした。
ああ、あんずジャムか。
もう随分と食べていない、杏の時期はほんの一瞬だから。
もうすぐ暇な時間も増えることだし、こんど作ってみようかな。
玄関のドアをガチャりと開けると、ふんわりと甘酸っぱい香りがした。
テーマ「梅雨」