季節外れの暑さだった昼間とは打って変わって、ひんやりとした心地良い夜風が開け放した窓から入ってくる。
まだ五月、虫の音は聞こえてこない。
草木の奏でる微かな音が、しっとりとした細やかな風に乗って聞こえてくる。
大昔の人はどんな音を聞いていただろうか。
ふと、そう思った。
見渡す限りの山林原野に沢山の動物が居て、きっと今よりも賑やかだっただろう。
夜風ももう少し冷たかったかもしれない、と肩にかけていたカーディガンに、さっと腕を通した。
テーマ「真夜中」
朝、いつものように起きると母が既に忙しそうにしていた。
顔を洗ってから朝食を食べる、シャケ、玉子焼き、味噌汁にアツアツのご飯。
全て母が作ったものだ。
パジャマから制服に着替える。
パリッと糊の効いたブラウスとスカート、アイロンをしてくれたのも母だ。
早くしなさい遅刻するわよ、母に急かされ玄関へ。
きっちり揃えられた革靴、つるつるピカピカに磨かれていた。
駅まで一緒に行こう、父が先に玄関で待っていてくれた。
つるピカの革靴を履いて父と玄関を出る。
いってきます。 いってらっしゃい。
お見送りの母に父がチューをする。
母は、何だかとっても嬉しそうだ。
テーマ「愛があれば何でもできる?」
父がパチンコ屋で交換した望遠鏡、さっさと使っていれば良かった。
大好きな夜空の星をたくさん観察したかった。
今、星を見ようと夜空を見上げたところで。
見えるのは等間隔に並んだ星。
便利な世にするために大量に打ち上げられた人工衛星だけだ。
ああ、もったいないことをした。
テーマ「後悔」
海に落ちれば溺れ死ぬ。
父は死んだと母がないた。
魚を追って、海に落ちたのだと。
母が父の分まで魚を取りにいく。
僕は、「いかないで、そばにいて」とないた。
空腹なら、いくらでも我慢できる。
それでも母は、魚を取りにいく。
母が必死で取った魚を僕は食べた。
早く大きくなりたい、父や母のように。
もうすぐ羽根が生え揃う、そうすれば飛ぶことができる。
この長大な黒い翼で、誰よりも長く速く。
この広い大空を飛んでみたい。
テーマ「風に身をまかせ」
ようやく、あの忌々しい花粉やら黄砂やらが飛んでこなくなったので、それはもう晴れやかな気分で閉め切っていた窓をガラーッと開け放ち、外の新鮮な空気を思う存分吸いまくる。
気温20℃、湿度31%、快晴。
絶好の洗濯日和だ。
レースのカーテンを引っぺがして風呂場に持っていき、まだ温い風呂の残り湯に粉石鹸を混ぜてそこに漬ける。
軽く混ぜるように洗っていると、灰色のような黄土色のような何とも言えない色になる湯。
ザッと引き上げて洗濯機に投入して、濯ぎ一回脱水8分でスタートボタンを押すと、チープな電子音のメロディーが流れる。
この曲何だったかなあ、と考えながらリビングの椅子に座ってちょっと休憩。
くあっと欠伸一つ、窓の外のすっきりとした青い空を眺めた。
テーマ「おうち時間でやりたいこと」