休日の朝、ヒヨドリが大音量で鳴く。
ピィイギィイイヤァア゛ァーッ!!。
文字にすると大体こんな感じだ。
しかも一発ではない、ピギャピギャと連続で煩く喚くのだ。
オスがメスにアピールするために鳴く求愛行動?らしいのだが、あんなに煩く喚くヤツをメスが好きになるとは到底思えないが。
あまりにも煩いから売れ残っているんじゃないか、とガラス戸越しに木の枝のヒヨドリを睨んでいると、メジロが庭に飛んできた。
ここらへんを縄張りにしている番で、庭の椿や梅が咲く頃に蜜を啄みにやって来る。
ヒヨョヨン、ヒヨヨッ。
労り合うような番のメジロの鳴き声、交互に蜜を舐める可愛らしい仕草。かわいい。
独り身のヒヨドリに見せつけるように、番のメジロがいちゃいちゃしだす。
ヒヨドリは、ギャフンっと一鳴きして何処かへ飛び去っていった。
テーマ「愛を叫ぶ。」
お祖父ちゃんが死んだとき、ガコンと開きっぱなしの口から、白いものがフワフワと飛んでいくのが見えた。
伯父さんも伯母さんも、近所からすっ飛んできた親戚にも見えていないその白は、部屋の中をゆっくりと八の字に二度飛んで、親戚一人ひとりにお辞儀をするように上下しながら薄暗い廊下に出てくる。
目の前をひらひらふわふわ飛ぶ白が勝手口の方へ飛んでいくと、その白がもう一つ増えた。
増えた方の白が、お祖父ちゃんの口から出た白の回りをクルクルと元気に飛び回る。
それに釣られるようにお祖父ちゃんの白もクルリと回りだした。
暗闇に乱舞する淡い二つの白。
暫くして二つの白は螺旋を描きながら、早春の夜空に消えていった。
テーマ「モンシロチョウ」
ラニアケア超銀河団 おとめ座超銀河団 おとめ座銀河団 天の川銀河 オリオン腕 太陽系第3惑星。
――おかあさん、おげんきですか。
私が生まれた、今は遥か彼方に在る、青く美しい惑星へ。
決まった時間に信号を送る、届いていることを祈りながら。
――わたしはげんきです、まだうごいています。
キレイに撮れた画像を送ることもある、大好きな父母達に見てもらいたくて、褒めてもらいたくて。
何もない宇宙を飛び続けて、どれ程の時が過ぎたのだろうか。
母達は私のことを覚えているだろうか。
――さみしい。 かえりたい。
砂粒のように小さくなっていった青を思い出しながら、決して届くことのない想いを今も送り続けている。
テーマ「忘れられない、いつまでも」
来年の桜は、一緒に見られるだろうか。
満開の桜並木を眺めながら、ふと思って隣に座る君をチラと見た。
どうやら二人同じことを考えていたようで、目が合うなり笑い声が上がる。
来年も見に来ような、と囁くと君は嬉しそうに何度も頷いた。
きっと、あっという間に次の春が来るのだろう。
君となら。
テーマ「一年後」
掌におさまる程の小ぶりな林檎の匂いを嗅ぐ。
秋の夕日を吸い上げたような、真っ赤に染まったその林檎は、雨と土と爽やかな甘い香り、秋の匂いがした。
着物の端でゴシゴシと磨いてからカリリと齧れば仄かな甘みと痺れるような酸味に、頬が縮むように痛んだ。
すっぱいなあ。
林檎を手渡してくれた隣の姉さんの白無垢姿を思い出して、鼻がツンとした。
構わずもうひと齧り、鼻を啜る。
すっぱすぎて、のみこめないや。
夕焼け色の世界がゆっくりと滲んでいった。
テーマ「初恋の日」