掌におさまる程の小ぶりな林檎の匂いを嗅ぐ。
秋の夕日を吸い上げたような、真っ赤に染まったその林檎は、雨と土と爽やかな甘い香り、秋の匂いがした。
着物の端でゴシゴシと磨いてからカリリと齧れば仄かな甘みと痺れるような酸味に、頬が縮むように痛んだ。
すっぱいなあ。
林檎を手渡してくれた隣の姉さんの白無垢姿を思い出して、鼻がツンとした。
構わずもうひと齧り、鼻を啜る。
すっぱすぎて、のみこめないや。
夕焼け色の世界がゆっくりと滲んでいった。
テーマ「初恋の日」
5/7/2023, 1:42:16 PM