えだまめ

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1/23/2024, 2:58:44 PM

疲れた。誰もいない電車の席に座っている。今の会社に入ってもう3年経つ。毎日残業続きで、最近はろくに食事もできてない。家は寝るためだけにあるようなものだ。正月やお盆休みにも帰れていない。親からも正月ぐらいは帰るように言われているが、とても帰れそうにない。……まだ駅まで時間がある。少し寝てしまおうか…
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「僕の将来の夢は、警察官になることです!警察官になって、皆を守る人になりたいです!」
子供が手に持った作文を読み上げている。教室の後ろには子共達の親らしき人が並んでいる。あぁ授業参観か。発表の終わった子供が拍手を貰い、恥ずかしそうにしていた。どこかで見たことあるような子供だ。上司の子か?座った子供に変わり、次の子が作文を手に立ち上がった。あれ…あの子供…。その子供は恥ずかししながらも声を張って読み始めた。
「僕の将来の夢は、学校の先生です。理由は…」

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次は◯◯駅ー◯◯駅ーお出口は右側です

聞き慣れた声で目を覚ます。家の最寄り駅についたそうだ。荷物を持って立ち上がる。電車を降りて、改札をくぐる。ふと、壁に貼ってあるポスターが目に止まった。

【◯◯大学 教育学部】

学校の先生や保育士を目指す人達が行くような大学のポスターだった。
「学校の先生…」
それはかつての俺の夢だった。きっとさっきの夢は俺の昔の記憶なんだろう。授業参観の日に恥ずかしがりながら読んだあの作文。読み終わった時に、自分に向けられたあの拍手。きっとなれるんだとあの時は思っていた。だが、いつからか夢を追いかけるのを辞めていた。
「なんでだろうなぁ…」
そう思いながら帰路につく。
「………教師って今からでもなれるかなぁ」
スマホを取り出して調べてみる。働きながら学校に行くのは大変だろうなぁ。まぁ…仕事辞めるか。趣味も何もなかったから金はあるし。少なくとも今の会社は自分にはあってない。
「…もう一回、目指してみるかなあ」
なれるかなんてどうでもいい。ただ試してみたかった。

「とりあえず、ビール買って帰るか!」

1/21/2024, 2:59:15 PM

もう何時間経った…?妻が特別室に入ってからしばらくたった。

今日、仕事をしていたら、妻が、入院している病院から電話がかかってきた。「陣痛が始まったからすぐに来てほしい」と。俺は急いで上司に事情を説明し、病院に来た。俺が来たときにはもう妻は特別室の中だった。

スマホを見る。もう0時を回っていた。
「頼む。無事に産まれてくれ…」
さっきから何度も呟いている。喉もカラカラだ。だが、飲み物を買いに行く気にもなれない。もし俺がいない間になにかあったら、もし俺がいない間に産まれたら。そう考えるととても動く気になれない。
「頼む…頼む…!」
その時

「ほんぎゃーほんぎゃぁあああ」

一瞬、時間が止まった気がした。産まれた…産まれたのか…?特別室の扉が開き、助産師が出てくる。
「お父さん…産まれましたよ。元気な男の子です」
涙が出てきた。案内され、特別室の中に入る。ベッドの上には、産まれたばかりの赤ちゃんを抱いた妻がいた。
「あなた…産まれたの…産まれたのよ…!」
「あぁ…本当に…」
産まれたばかりの赤ちゃんは小さく、でも確かに生きていた。
「良かった…本当に良かった…」
これほどまでに特別な夜はあるだろうか。そう思えるほどだった。

外は雪が降っていた。産まれたばかりの赤ちゃんを囲み、夫婦は涙を流し笑っていた。