ここが分岐点。
1点ビハインドで向かえた八回表の守り。
本能が反応する。
疲れていたはずの手足の感覚が戻って来る。
二死二、三塁で迎えたバッターは、四番。
不思議な感覚に陥る。
いつもより速い鼓動を感じる身体に反して、頭はかつてないほど冷静に周りを捉える。
二塁手からのサインを確認し、キャッチャーに向き直る。
一球目。
今までのフォームを思い出す。
走馬灯のように、軌跡が駆け巡る。
柔軟に、かつ大胆に力を込めて。
ストライク
ボール
ストライク
力を込めて。
ボール
力を込めて。
キーーン
身体が撥ねる。
行く先を見つめ、捕球体制に入った仲間を見つめる。
パシッ
「アウトぉ!」
「おおおしゃぁ゙ぁ゙!!」
身体が吠える。
歓声が聞こえてくる。
急激に身体が弛緩していくのを感じ、慌ててベンチに走り出す。
口角が上がりきって戻らない。
チームメイトと称え合いながら、攻撃のために声を燃やす。
もう一度闘志を宿す。
絶対に勝つ。
「部活辞めます。今までありがとうございました。」
小学3年生から続けてきた野球。
高校1年の冬、僕は野球を辞めた。
まあ、理由は色々あって、野球への熱は冷め、小説を書くことに専念しようと思った。
まあ元野球部の身としては、休日なんてやることがなくて仕方がない。
なんとなく部屋の整理をしていたら、スポ小の卒団ムービーが出てきた。
まあ、見ていると思うこともあるわけで。
思い立ったがままに自転車を飛ばして今は廃校となった小学校へ。
始めて野球ボールを投げたブルペン、低くなったマウンド、剥がれかけのホームベース。
その一つ一つが懐かしくて。
スマホを構えながら、過ぎた日を想う。
ありがとう。
さようなら。
小さい頃、驚いたことがある。
太陽が昇った後も星座は空にある、ということ。
そして今の僕には理解る。
僕はそんな星座のような存在だと。
もちろん、世界中のどこにも昼間に星を見つけようとする人は居ないのだろうと、今までの僕は思っていた。
そう、君と出会うまでは。
君は言った。
「私は星座が好きだ。だから、昼間も星座のことを考えてる。今空にはオリオン座が見えるんだよ。」
今は、そんな君だからこそ見つけられた僕を誇りに思う。
君が指揮をとる僕の心臓は、君との距離に比例してアップテンポなリズムを刻む。
鼓動とともに重心がつま先に向く。
このまま操られるのが癪で、一歩踏み出してみる。
一瞬の静寂が訪れる。
なだめるような微笑みが僕を捉える。
僕の心臓が演奏を再開する。
また一歩君へ近づき、君を誘う。
僕と踊りませんか?
君は少し変わっている。
今日が終わるとき、僕は「またね」と言う。
君は決まって「また、巡り会えたら」と返す。
そんな君とまた会えたとき、僕はどうしようもなく運命を感じる。