あの日のことはよく覚えてる
初めて二人で遠出した
手をつないで何の気なしに街を歩いて
思いつくままにあちこちへ
海岸線を先走って早歩きする
一緒にいるだけで楽しくて身体が軽かった
後ろから響くシャッター音
振り向くと逆光の中で笑ってる君がいた
スキップしないでと笑いながら言うものだから
わざとゆっくりスキップした
歩めなかった道
選べなかった道
辿り着けなかった道
選択の連続が人生をつくるなら
こんな夢を見た、の夢よりも誇らしい日々を送れますように
夢から醒めても幸せを噛みしめられますように
これでいいよりも、これがいいを選び取れますように
前略 24歳のお母さま
ごきげんよう、お母さま。
あなたのお腹の中にいる、私だよ。
私はタイムマシーンに乗って、未来から来たあなたの娘です。
せっかく来たけれど何だか気恥ずかしいので、手紙を認めていきます。
あなたが命懸けで産んでくれた娘は、常にあなたの良き理解者になります。多分。
なので安心して産んでください。
ただの他人である夫なんかより、よほどあなたの心の拠り所となり、時に喧嘩もしますが常にあなたの味方になりました。
優しくてその実繊細で、身を粉にして人に尽くすあなたを、見返りの無い愛で見守る娘であることをここに誓います。
これからあなたの身に起こる様々な困難や災難も、娘である私や親切な人たちのおかげでまるく収まります。
安心して失敗したり泣いたり笑ったりして、ありのままのあなたを謳歌してください。
娘より
PS、気味の悪いこの手紙を保管するかはお任せします
酔い醒ましにと窓を開け放つ
街灯を二人ぼんやり眺める
言葉を吐くたびに交差する吐息
光に照らされた琥珀色の瞳に捕まる
思わず逸らした視線をどうしたらいいか分からない
長い指で髪を梳き 静かに笑う貴方
熱い掌が頬を包み 引き寄せられる
特別な夜 貴方がここにいる
#海の底
私たちが授かった底知れぬ価値は
何ものも損なう事はできない
理不尽や身勝手を感じた時は
心と身体を研ぎ澄ませる
外の世界からひっそり離れ
深い深い海の底へ
言葉を持たない感情も掬い取り
丁寧に自分を扱う
何も失うことがないように
何も奪うことがないように