え〜本日は当列車“綺羅星特急"にご乗車頂き、
誠に有難う御座います。
当列車は安全に気をつけながら、
流星の如き速さでお客様を目的地まで確実に送り届けます。
?
どうなさいましたか。
え?切符にも車内のどこにも目的地が書いてないって?
……それは当たり前ですよ、お客様。
何たってこの列車はそこが目的地である限り、
何処にだって行くのですから。
例えば、
あの日別れたきりのあの子のところ。
無くしてしまった宝物のところ。
もう居ないあの人のところ……なんてのも。
──さぁお客様、アナタはこの列車に乗ってどちらまで?
テーマ『列車に乗って』
白紙の用紙と向き合い、
文字を綴ること。絵を描くこと。
それは私にとって一種の現実逃避であり、
染み込んだ生活の一部でもあった。
目まぐるしく過ぎゆく日々の隙間で寄る辺となるもの。
暗い海に放り出された私を砂浜に押しあげる唯一のもの。
……これが正しい事なのか、私には分からない。
だが、今日も筆をとる。
明日へと心を繋ぎ止める、束の間の現実逃避の為。
テーマ『現実逃避』
ふらりと立ち寄った古びた映画館。
上映されていたのはありきたりな恋愛映画で、
客は私1人だった。
「ハズレだな……」
嘆息しつつチケット代分くらいは、と私は映画を見続けた。
物語が終盤に差し掛かった時、後方の扉がキイッと音を立てた。
私はさして気にもとめず、スクリーンを見つめる。
画面の向こうでは主人公がヒロインに告白をするところだった。
慣れない手付きでヒロインの肩を抱き、そして口を開く。
「“君を、愛してる"」
突然、隣からも同じ台詞が聞こえて、私は驚いてそちらを見た。
「あの時の貴方そっくり。緊張して震えてた」
そこには妻が立っていた。
「……なんでここに」
「探した。執筆に行き詰まると思い出の地を巡るの変わらないね、作家先生」
「…………すまない」
謝ると妻は隣に腰掛けて、私の目を真っ直ぐ見つめた。
「謝罪なんて要らないわ。そんなのより……もう一度言ってくださらない?あの日みたいに」
そう言って変わらぬ笑顔を向ける妻の、その手を取ると私は返した。
「喜んで。但し今度は言葉を尽くして伝えよう、君への愛を」
テーマ『Love you』
ふざけるな!
同情の言葉を吐いて、
心の隙間に付け入って、
散々甘やかして、優しくして。
心を許したところでこの仕打ちだ!!
こんな事なら、
こんな結末になるのなら、
あの時その手を取らなければ良かった。
出会いたく無かった。
知りたく、無かった。
愛したくなんて……
ああ……勝手に置いて逝くな……馬鹿野郎
テーマ『同情』
命はやがて枯葉のように
散って、落ちて、降り積もって
そして新たな命の礎となるのでしょう。
ならばこそ
それまでは強く生きていきたいと
生きていかねばならぬと思うのです。
テーマ『枯葉』