片道の 燃料乗せて 朝焼けを
遠くの空へ 遠くの空へ
仰ぎ見て けぶり揺れる ひとり寝屋
気持ちだけ今 遠くの空へ
茄子の脚 ふんばり立ちゆる 縁側で
遠くの空へ そっと手を振る
「大空に!!」 焦がれた気持ちは 激しくて
!マークじゃ 足りない感情
鮮やかな色が、視界を汚染している。
空は青くて、木々は茶色で、葉っぱは緑で。
子どもがクレヨンで描いた絵のようなべったりした原色の色彩が、私の視界を汚染している。
君が見た景色もこういうものであったのだ、ということが、私には今、初めて分かった。
君が、「見える色が変」と言い出したのは、半年前のことだった。
色が絵画のようになってしまった、なんて。
それがまさか本当に起こる現象だなんて、信じられなかった。
君はいつも悩んでいた。
他の人とは違う色彩が見えることを。
誰にも自分の視界に起きていることを信じてもらえないことを。
そして、この色彩が他の誰かに移ってしまうに違いないということを。
そうして、ある夏の日、君はいなくなった。
私の前から姿を消し、君を知っていた人々の前からもまた、姿を消した。
君がいなくなってから、私の視界も、あの色彩に汚されるようになった。
君がいなくなってから初めて、私は、君が見た景色を、初めて理解したのだった。
空は、クレヨンのように真っ青で、木々はべったりとした茶色に塗りたくられている。
クレヨンで描いたようなべったりした色彩が、私の視界を汚している。
言葉にならないものを無理矢理言い繕うのも
言葉にしなくても分かるものをくどくど説明するのも
何か違う気がして、手を止めた。
それは、よく晴れた、暑い日のことだった。
空には、山よりも大きい入道雲が、どこまでもどこまでも広がっていた。
日差しが強くて、建物の影が揺らいでいた。
そんな暑い夏の海だった。
思えば、あれが全ての始まりで、終わりでも合ったのだと思う。
私はまさにあの日、あの子に出会った。
まだ5歳ほどに見える少女が、砂浜にひとり、ぽつんと、立っていたのだった。
工業地域が立ち並ぶ海岸沿いの、人が使わない砂浜にこんなに幼い子供がひとりでいること自体が珍しくて、それは、真夏の暑い歩道を歩いていた、私の目を引いた。
あの子は、やけに大人びた目でぼんやりと、海の波を見つめていた。
それで、私はうだるような暑さに操られるようにして、そこに、同種の子供の姿をした者を慈しむ本能に押されるようにして、どう見ても不審で怪しいあの子に声をかけたのだった。
それが、覚えている限りの、あの子との記憶の最初だった。
覚えている限りの、この件の最初の記憶。
あの、暑い、暑い、真夏の記憶だった。
秋の、台風が近づいてきた今の海は、あの真夏の日が嘘のように泡立ち、波だっていた。
波はうねり、入道雲まで溶かしてしまったのか、薄墨色の空にまで、白い水滴を投げかけていた。
その波の合間に、うねる黒い何かが見えた。
暗い色の何かは、そこで蠢いていた。
終わりが来たのだ、と分かった。
私にも。
あの子にも。
波と黒い何かは、大きくうねりを上げた。
ごうう、と波が唸り声をあげた。
終わりが来ていた。
私の脳裏には、あの真夏の記憶が、真夏の眩しい日差しのように、強く閃きつづけていた。