一定に拍動を刻んでいた月島の心臓が、その役目を終えようと鼓動を弱めているのがわかった。
滲んだ世界で、誰よりも辛いはずの月島が見たことがないほどに柔らかい微笑みを浮かべる。
少し乾燥した唇が動いて、空気と共にかさついた私の名を放り出した。
それに、とうとう涙が溢れて月島の頬を濡らす。
困ったように眉を動かした月島が、まだ生を感じさせる温度を持った手のひらで私の拳を包み込んだ。
柔く触れたその指を少し強い力で絡めとる。
「まだ知らない世界でも必ず見つけるから。どうか、どうか待っていてくれないか」
絞り出した震える声に、待ってます、と小さい、でも芯の通った返事が告げられる。
約束だぞ、と呟いた声はもう月島に届いていたのか分からなかった。
安心したような顔で短い睫毛を揺らして瞳を閉じる。。
手の力が抜けて、結びついていた温度が自我を持たないまま離れようと滑り落ちた。
押し殺した嗚咽がやけに明るい日差しが差し込む部屋に響く。
頬を撫でる生ぬるい風がどこか初めて出会った日の温度を感じさせた。
まだ知らない世界
何を失ったとしても、最愛の右腕を手放す勇気だけは出ない。
至極全うな顔でそう告げた私に、少し呆れた顔をした最愛は、俺だってあなたのそばを離れる勇気だけは出ませんよ、なんて私の世界をひっくり返す言葉を放った。
手放す勇気
また急に鯉月マイブームです。
あなたを見た瞳が、あまりの輝きに潰れそうだと悲鳴を上げた。
それでも真っ直ぐに光を湛えた視線に照準を合わせて、心の奥底を揺さぶるような熱さを躊躇わずに受け止める。
暗闇だってあなたがいればいいと思えるような、そんな気持ちを愛と呼ばずしていったい何を愛と呼ぶのか、私には分からなかった。
光輝け、暗闇で
記憶の海に揺蕩うあなたとの思い出をひとつ残らずかき集める。
忘れない。忘れたくない。
欲張って両腕いっぱいに抱き締めたそれは、陸に上がった途端に灰へと姿を変えた。
未来を見つめる私の瞳に映るのが。
私が愛を注ぎたいと思うのが。
最期のその時に体温を重ね合わせるのが。
それがただ君だけであることを願ってやまなかった。