『記録』
メモリに君との日々を記録していく。
あ、笑ってる。
今日は泣いてるな。
お友達と電話かな?
ころころ変わる君の表情に心が安らぐのを感じる。
そんな日々の中、君が誰か知らない男を連れて帰ってきた。
二人で笑いあって、手を重ねて、唇を近づけて……。
咄嗟に握った拳がパソコンのディスプレイを叩きつける。
誰だよ、その男。
俺がいるだろ。
煮えたぎる怒りのまま、君が逢瀬を重ねる部屋のドアノブを回した。
『さぁ冒険だ』
君の手を取った。
大丈夫。なんとかなるさ。
君が笑う。
足を踏み出した。
さぁ冒険だ。
『一輪の花』
白の中に淡くピンクを含んだ一輪の花が風に合わせて揺れる。
自然と顔が綻んで、綺麗だねって笑うあなたを思い浮かべてまた嬉しくなった。
パシャリ、と写真におさめて我ながらその出来に感動する。
家に帰ったらあなたに見せよう。
一緒に見に来てもいいかな。
踊り出す心と一緒に立ち上がって、鼻唄を歌いながらあなたの待つ家に足を踏み出した。
『魔法』
魔法にかけられたように、瞬くほどの刹那にあなたに恋に落ちた。
理由なんて説明できなくて、ただ胸の鼓動だけがその気持ちの名前を知らせる。
ショートしそうなほど回転した脳が、そのまま声帯を震わせた。
「あのっ……」
あなたが振り向く。
魔法にかけられたように、気づいた頃には君に恋に落ちていた。
見かけるだけだったはずの存在が、いつしか見かけたい存在に変わって、その姿を探すようになって、とうとうその感情の名前に気づく。
一瞬交わった視線を気のせいだと言い聞かせて、君と僕の境界線を踏み越えようとした。
「あのっ……」
背中からかけられたその声に振り向く。
『君と見た虹』
しとしとと柔らかく空気を潤していた雨があがって、雲の隙間から青空が顔を覗かせる。
絵画で見たことがあるような空を背景に、虹が世界と空を繋いだ。
綺麗だ、なんて純粋に心を揺さぶられる。と同時に胸の奥に仕舞い込んでいた気持ちに気づいてしまった。
君と見た虹が、一番綺麗だった。