『愛情』
あなたの幸せを願うこの思いが愛情じゃないのなら、何が愛なのかわからないほどだった。
けっこういろんな人から愛情を向けられて育てられてる自覚があるんですけど、それを返せてたらいいなって思います。
『微熱』
始まりはきっと、微熱みたいな柔い恋だった。
「好きだよ」
自分の口から出た言葉に驚いて、その後すぐに目の前で呆けた顔をしている君を見つめる。
あ、かわいい。じゃなくて。
「……え」
みるみるうちに紅くなるその顔よりも急速度で自分の体温が上がるのを感じた。
「あ、えっと、ちがくて!」
何が違うんだよと言う感じの言い訳を連ねる。
君の顔はまだきょとんとしたままだ。
「私のこと、好きじゃないの?」
「それは好きだよ?」
咄嗟に出た言葉に心の中で頭を抱えた。
いい感じに誤魔化せるところだったじゃん。今。
僕の手と共鳴して震え始めたグラスを放す。
どうにかしないと、と思考を巡らすけれど、出てくるのは浮気男さながらの言葉ばかりだ。
「私も好きだよ」
そんなことを考えていたから、反応が遅れた。
たぶんさっきの君と同じような表情をして君を見つめる。
え、今、何て言った?
「私は君のこと、ラブで好きだよ」
君はどうなの?
世界が揺れる。
空間をいつもよりゆっくり流れた言葉が、僕の細胞に染み渡る。
頭はパンク寸前だけど、次にしなきゃいけないことはわかった。
僕と同じ少し微熱を持っているかのようなその手を握って、熱を宿した瞳を見つめて、もう一度始まりの言葉を紡いだ。
『太陽の下で』
太陽の下で笑うあなたがやけに輝いて見えて、それを表す言葉が恋だということにやっと気づいた。
あなたには太陽の下で生きていってほしいと願っていた。
痛いほどの陽に当てられ、眩しいほどの光に囲まれ、ただひたすらにその瞳に明るいものだけを映してほしいと願っている。
『セーター』
「もうすぐクリスマスだね」
隣に並ぶ君が、息を白く凍らせながらそう呟く。
そうだね、なんてマフラーに包まれた口をもごもごと動かしながら答えた。
「一緒に過ごす人いるの?」
「いないかなー。お前は?」
「私もいないけど」
「なんだ一緒じゃん」
くす、と笑った瞬間に漏れ出た息が白く濁ってすぐに消える。
冷たい風が君の髪を揺らして吹き抜けた。
「一緒に過ごしてあげてもいいけど」
「お前が俺と過ごしたいだけだろ」
いつもの軽口の応酬のつもりだったけど、君の雰囲気が違うことに気づいた。
緊張してますオーラが溢れでている。
なに、どしたの、なんて言葉を投げ掛ける前に、君が口を開いた。
「そうだよ」
世界が止まった。
夢だと思わざるを得ないような状況で、それでも君だけはそれが現実だと感じさせる。
え、とかあ、とか言葉にもならないような声が溢れた。
不思議と、嫌悪感はなくて、むしろ嬉しいとさえ思える。
はやく気づいてよ、と君が唇を尖らせた。
「私はあんたと一緒がいいんだけど」
セーターにから覗くその頬がいつもより赤いことに気づいてしまって、それと同時に自分の気持ちを自覚した。
ツンデレかわいいですね。タイプです。
『落ちていく』
まるで落ちていくようだ、と思う。
底のない湖に引きずり込まれるようにあなたに惹かれていく感覚は、得も言われぬほど不思議なものだった。
この底に触れられたときが至福だと言えるのではないか、とまで考える。
きっと、それは叶わないのだろうけど。
それでも、私は、奥底で囚われ続けたとしても、その相手があなたならば、それはきっと幸せと呼べるのだろう。