『私の日記帳』
いつ頃からだろうか。私の日記帳にあなたの名前が出るようになったのは。
あ、今日もあなたの事書いてる、なんて思ってたのは束の間で、気づいたらそれが当たり前になっていた。
いつしか私の日常に溶け込んでいたあなたを好きになるなんて、春に花が咲くくらい当たり前のことだったようで。かつて友情として大切に抱えていた想いは、愛情へと形を変化させていた。
気持ちを伝えるなんて到底出来やしないし、あなたと私の想いが同じ温度を秘めているなんて思ってもいないけれど。
たったひとつ。たったひとつだけ。
いつまでもあなたが私の隣で笑っていてほしいという願いを胸に抱いて、今日もペンを走らせます。
『向かい合わせ』
私の向い合わせはいつでもあなただった。
ふとした時に目に入るのは、いつもあなたしか考えられなかった。はずなのに。
幾年ぶりかに思い出してしまったあなたの像を掻き消しつつ、今はもう違う向い合わせを見つめる。
こんな私で、ごめんね。
小さく呟いた言葉は私の口の中で溶けていった。
『やるせない気持ち』
ふと目についたカレンダーが、君がいなくなってから2年とちょっとが経つことを教えてくれた。いまだに僕の心の大半を占めていて、忘れることなんてできなかったからなのか、そんなに時が過ぎていたなんて気づかなかった。
なんとなく見ていられなくて、カレンダーから視線を引き剥がす。
窓から一直線に見える青い空に浮かんでくるのは君との日々だった。笑った顔、怒った顔、泣いた顔、恥ずかしがっている顔、ときどき見せた寂しそうな顔。全部全部、いつまでも隣にあるものだと思い込んでいた。
君が隣にいた間に精一杯の愛を伝えていたはずなのに。君がいなくなってから、あれも、これも伝えておけば、もっとたくさん笑わせられれば、なんて感情にがんじがらめにされていた。
「もうどうにもなんないのにね…」
空白の部屋に微かな声が落ちる。
自分が起こしたはずの空気の揺らぎにすら耐えられなくて、唇を噛んだ。君が背負っていた痛みはこれの何倍だったのだろう、なんて無意味なことを考える。
いつまでも胸の中に燻るやるせない気持ちを抱え込んで、僕は今日も息をする。
『海へ』
柔らかい月の光が辺りを照らす。
ざあざあと音を立てながら浜辺に押し寄せる波に、ふと関心に向いた。かすかに逡巡を巡らせてから海へ足を進める。
熱帯夜にふさわしい生ぬるい海水が足にまとわりついた。
思い浮かべるのはかつて隣に立っていた人。
今はもういない、あなたのこと。