「目が覚めるまでに」
キキーーーーーッッ。
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「あなたはト××クに轢かれ×憶を失いました。」
誰?
見えない。声は聞こえてるのに。
「その×めこれから××の継承を×めます。」
ねえ。
何言ってるの?
聞こえないよ。
ねえ。
あなたは、誰?
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ガバッ。
白い天井。
「ここはどこ?」
「ゆい。起きたのね。よかった。」
「誰ですか?」
「花咲いて」
この道を1人で歩くのは何回目だろうか。
隣にいるはずだった人の横顔を思い浮かべふと考える。
堂々と胸を張って笑いながら歩いていた日々。そんな日々を恋しく思いながらも下を向いて歩く。
あの頃はあなたがいなくなるのなんて考えられなかったのに、いつの間にか慣れてしまっている自分に驚いている。
ふわりと手に落ちた桜の花びらを眺めてみる。
昔は好きだった桜も今では嫌いになってしまった。
桜が咲くと元からそこにあったかのように溶け込む。そこにいるだけで綺麗な桜は見惚れてしまう程美しい。そして、すぐに散ってしまう。
元々綺麗だとは感じていたが、散ってしまった後には「あぁ、綺麗。」と改めて気付かされる。
幼かった頃はただただ散ってしまう桜を残念に思っていたが、今はあなたと重ねてしまってどうにも好きになれない。
いつか、胸を張ってこの道を歩く日は来るのだろうか。
保証は無い。確証も無い。だけど何となくいつか来る気がする。
きっといつか。
「私の名前」
人にはそれぞれ自分を認識するための名前がある。
未来、ひとみ、花、葵。
世の中には数え切れない程の名前があり、同じように数多くの漢字、読み方が存在する。だから当然、一緒の名前になってしまう人もいるのだ。
遥、小春、結衣、光莉。
私の名前は紅葉。
よく見る定番の名前ではあるがおそらく私と同じ名前の人は数少ないことだろう。
この名前を見たら、もみじ、もしくは くれは と読む人が多いかもしれない。しかし、私の名前はそんな可愛いものではない。
────────私の名前はめいぷる。
私はこの名前が嫌いだ。
私は自他ともに認めるいわゆる普通の女の子で人と違うところと言えばこの名前くらいだっただろう。だからだろうか。この名前のせいで私には特定の友達がいなかった。
「あいつってさ、めいぷるって名前の割には普通だよな」
そうやって笑う声を私は何回聞いただろうか。
最初の頃はそんな言葉に傷ついて流していた涙も今となれば一滴も出ない。
人間いつかは慣れると言ったもので、私はもう笑う声を聞いても何も感じなくなってしまっていた。
だけど時々ふと考えてしまう。
もしも。
もしも、私がめいぷるに似合うような奇抜な、可愛らしい容姿をしていたら。
もしも、私の名前が普通の女の子の名前だったら。
私は今頃沢山の友達に囲まれ幸せに暮らしていたのだろうか。
下を向いて生きることは無かったのだろうか。
でも今更そんなことを考えたところで過去も未来も変わりはしない。
そんなくだらないことを考えながらも私は、今日もこの生きずらい世界で生きていかなくてはならないのだ。