『星座』
空を見上げると、オリオン座が見える。
私が唯一知ってる星座。星座を見ると思い出してしまう。彼と夜に散歩をするのが好きだった。
彼は色んな星座を知っていて、指をさしながら教えてくれた。彼はいつも指をさしてくれるけど、どの星を指してるのか分からなくて、適当に流していた。せめて彼の星座だけでも、ちゃんと覚えておけばよかったな。
『踊りませんか?』
私たちの学校は、体育祭の演技の中でフォークダンスがある。自由参加だから踊るのはほとんどがカップルだ。
つまり、そのダンスに誘うということが、告白と同義になる。まさに今、体育祭1週間前。この時期が絶好の機会という訳だ。誘う、誘われた、誘いたい、誘った、ここ最近はダンスの話で持ち切りだ。
「ねーね、桜はダンス誘われたりした?」
昼休み真っ只中。一緒にご飯を食べていた真菜が、まるで頭を覗いたかのように話しかけてきた。
「はぁ、される訳ないでしょ…、」
「えーーー、分かんないじゃーん!」
「てゆうか、誘う方もオーケーする方も、両方頭いかれてんだろ。」
「しかも、人前でダンスするなんて死んでも嫌だね。」
「相変わらず捻くれてんねー、そもそもダンスする相手なんていないくせにぃーもぐもぐ」
口に入れたまま喋るな。
「私は、こういうイベントに乗っかるやつが一番嫌いだ」
「つまんないのー」
「いいと思うけどね、私は!こういうイベントだからこそ勇気出して気持ち伝えられる人がいるんじゃん?」
「そんなちっぽけな気持ちなんだったら、一生内に秘めてろ」
教室の隅っこで食べてないとできない会話だ。こんなの陽キャさん達に聞かれたら、もうクラスで生きていけない。
「厳しー」
「でも私、桜のそういうとこ好きだな」
「チッ」
「まさかの舌打ち!」
「でもでもさ、私は誘われたいなー、だってもう最後の体育祭だよ?まさかラブキュン展開無しに、3年生になるとは…さすがに私にも春が来て良くない!?」
「もう秋ですけどー?」
「誰か誘ってくれたらなんかしてくれたりしないかなー」
「────じゃあ、私と踊る?」
「……は?」
「うそうそ」
「冗談にき──」
ガタガタ
「まーーなーーさん!」
「え、なに」
「俺と一緒にダンスを踊ってくれませんか?」
クラスの男子が現れた。突然。多分桜にとっては。
桜がこっちを見るけど、私にはどうすることも出来ない。だって私は、桜が誘われるのを知っていた。盗み聞きしてた訳では無いけど、男子たちの声がうるさかったから勝手に聞こえてきてしまったんだ。仕方がないだろう。
「………え、っと」
だからこっちを見るなって、あんなに誘われたいって言ってたじゃないか。喜べよ!相手だって、よく知らないけど別に悪くはないはず、たぶん。こんな昼休み真っ只中のクラスで、誘ってくるのを除けば、ほんとにそこ以外は、
「こいつさー、ずっと真菜さんのこと気になってたみたいで、ずっと相談されてたの」
「そーーなんだよ!」
「おい!余計なこと言うなよ。」
「………。」
「ご……めんなさい」
「突然だったし、いきなりダンスって言うのちょっと、」
「え、でもでも、こいつ良い奴だしさ。もう少しだけ、考えてもくれない?」
バシッ
「いて、」
「返事ありがとう、急だったのごめん」
「おい行くぞ」
突然やって来て、突然帰った。なんだあいつら。
高校生のノリまじわかんねー。
「はぁーーーーー、」
「なになになになにさっきの、」
「どゆこと、何まじで」
「誘われて良かったじゃーーーーん」
「バカ言うな、あんなん喜べるかい!とりあえず〜最後の体育祭だし〜ノリで言うか!っていうオーラ満載だったやん」
「それはまあ、うん、否めなくもない」
見るからにガチ感は無かった。断るのが最適解だったと思う。ほんとに。でも正直、あんなに誘われたいって言ってたから、ちょっとおっけーするかもと思ったのは言わないでおこう。
「あ!ねえねえ」
「────いいよ」
耳元で真菜が言う言葉の真意が分からなくて、聞き返す。
「?なにが、」
「だーかーら、」
「一緒に踊ってあげてもいいよって」
「………、は!?」
「そっちが言ったんじゃん」
おいまて、言ったよ確かに言ったよ。でもあれは、さっきの騒動でなかったことになったじゃん。
「そんな焦る〜〜?」
「2人して頭いかれたやつになろうよ。まあさすがに、体育祭では踊らないけどさ」
「ダンスに誘うって意味知ってるでしょ?それに応えるって言う意味も、」
知ってるから困惑してるんだろうが!!こんなイベントに乗っかって…、乗っかるだけならまだしも、さらに冗談にしようとしてたんだよ私は。私が大っ嫌いなやつに自分がなってんだぞ。
「ね!桜」
笑顔向けんな。
「だーーーー〜、もう!」
「好きだよ、真菜」
「…えっと、ガチの方で」
「──知ってる!」
お題『巡り会えたら』
君がよく行くというマックに行く。君はいない。君のストーリーによく上がってたサウナに行く。君はいない。君の部活の大会に行く。君はいない。君が好きだと言ってた本を買う。君はいない。君の最寄りの駅に行く。君はいない。君の家の前に行く。君はいない。君の部屋に入る。君はいない。君はどこにもいない。
鼻に抜けるお線香の香り。何度も来たはずのこの部屋から、君の匂いは無くなっていた。私は君の匂いをもう思い出すことが出来ない。前がぼやけて、頬が冷たい。いつの間にか泣いていた。
もう一度君に会いたい。
どうかもう一度だけ、君と巡り会えたら────
お題『奇跡をもう一度』
クルッ
ドサッ
「はい、雑魚〜」
「次俺の番な!」
既にご飯は食べ終わったお昼休み。突然にもペットボトルチャレンジが始まった。ペットボトルを空中で一回転させてから、立たせるというチャレンジ。今それを4人連続で成功させようとしている。
「おい!見とけよ」
クルッ ストン
「うおおおー!!」
「まずは1人目!」
ただのつまらない遊びだと思うかもしれないが、何故かこれは異様に盛り上がる。高校3年生になっても馬鹿なことしかやってない。こうやってバカ騒ぎするのもあと何日かと思うと…、
クルッ ストン
「まじか!!」
センチメンタルな気持ちになってる俺を置き去りに、2回連続成功。
「やべー、緊張する」
「3回連続かかってんだから、絶対成功させろよ」
「おっけーおっけー、まかせろ」
クルッストン
「サイコーー!」
「ナイス」
「やるぅ〜!」
3人から賞賛を送る。残る1人の顔がプレッシャーで歪んでいる。そう、俺の顔である。どうせそんな連続で出来ないだろうと高を括っていた。
「待って待って、ノーカンの練習させて」
「バカバカ、そんなんさせる訳ないだろ」
「ここで決めてこその男!」
「お前の男気見せてみろっ!」
成功するビジョンが見えなすぎる。しかし、もうやるっきゃない状態になっている。
「失敗しても、罵詈雑言は禁止な」
「いくぞ」
クルッ
ストンッ
「うおおおおぉ!」
「俺らすげー!!」
うるさくなりすぎて、周りの視線が体を突き刺す。でももう、そんなのどうでもいい。今が楽しい。
「こんなしょーもないのに、奇跡使うなんてもったいねーよな」
「それはまじでそう」
「でもさ、もっかいやんね?」
ニヤニヤ顔でペットボトルを掴む。
あと何日かだけのこの青春を、もう少しだけ噛み締めたい。体育祭や文化祭みたくあの時楽しかったね、と思い出されることは無いだろうけど、確かにあった俺たちの青春を。
クルッストン
「まずは1人目ーー!!」