『踊りませんか?』
私たちの学校は、体育祭の演技の中でフォークダンスがある。自由参加だから踊るのはほとんどがカップルだ。
つまり、そのダンスに誘うということが、告白と同義になる。まさに今、体育祭1週間前。この時期が絶好の機会という訳だ。誘う、誘われた、誘いたい、誘った、ここ最近はダンスの話で持ち切りだ。
「ねーね、桜はダンス誘われたりした?」
昼休み真っ只中。一緒にご飯を食べていた真菜が、まるで頭を覗いたかのように話しかけてきた。
「はぁ、される訳ないでしょ…、」
「えーーー、分かんないじゃーん!」
「てゆうか、誘う方もオーケーする方も、両方頭いかれてんだろ。」
「しかも、人前でダンスするなんて死んでも嫌だね。」
「相変わらず捻くれてんねー、そもそもダンスする相手なんていないくせにぃーもぐもぐ」
口に入れたまま喋るな。
「私は、こういうイベントに乗っかるやつが一番嫌いだ」
「つまんないのー」
「いいと思うけどね、私は!こういうイベントだからこそ勇気出して気持ち伝えられる人がいるんじゃん?」
「そんなちっぽけな気持ちなんだったら、一生内に秘めてろ」
教室の隅っこで食べてないとできない会話だ。こんなの陽キャさん達に聞かれたら、もうクラスで生きていけない。
「厳しー」
「でも私、桜のそういうとこ好きだな」
「チッ」
「まさかの舌打ち!」
「でもでもさ、私は誘われたいなー、だってもう最後の体育祭だよ?まさかラブキュン展開無しに、3年生になるとは…さすがに私にも春が来て良くない!?」
「もう秋ですけどー?」
「誰か誘ってくれたらなんかしてくれたりしないかなー」
「────じゃあ、私と踊る?」
「……は?」
「うそうそ」
「冗談にき──」
ガタガタ
「まーーなーーさん!」
「え、なに」
「俺と一緒にダンスを踊ってくれませんか?」
クラスの男子が現れた。突然。多分桜にとっては。
桜がこっちを見るけど、私にはどうすることも出来ない。だって私は、桜が誘われるのを知っていた。盗み聞きしてた訳では無いけど、男子たちの声がうるさかったから勝手に聞こえてきてしまったんだ。仕方がないだろう。
「………え、っと」
だからこっちを見るなって、あんなに誘われたいって言ってたじゃないか。喜べよ!相手だって、よく知らないけど別に悪くはないはず、たぶん。こんな昼休み真っ只中のクラスで、誘ってくるのを除けば、ほんとにそこ以外は、
「こいつさー、ずっと真菜さんのこと気になってたみたいで、ずっと相談されてたの」
「そーーなんだよ!」
「おい!余計なこと言うなよ。」
「………。」
「ご……めんなさい」
「突然だったし、いきなりダンスって言うのちょっと、」
「え、でもでも、こいつ良い奴だしさ。もう少しだけ、考えてもくれない?」
バシッ
「いて、」
「返事ありがとう、急だったのごめん」
「おい行くぞ」
突然やって来て、突然帰った。なんだあいつら。
高校生のノリまじわかんねー。
「はぁーーーーー、」
「なになになになにさっきの、」
「どゆこと、何まじで」
「誘われて良かったじゃーーーーん」
「バカ言うな、あんなん喜べるかい!とりあえず〜最後の体育祭だし〜ノリで言うか!っていうオーラ満載だったやん」
「それはまあ、うん、否めなくもない」
見るからにガチ感は無かった。断るのが最適解だったと思う。ほんとに。でも正直、あんなに誘われたいって言ってたから、ちょっとおっけーするかもと思ったのは言わないでおこう。
「あ!ねえねえ」
「────いいよ」
耳元で真菜が言う言葉の真意が分からなくて、聞き返す。
「?なにが、」
「だーかーら、」
「一緒に踊ってあげてもいいよって」
「………、は!?」
「そっちが言ったんじゃん」
おいまて、言ったよ確かに言ったよ。でもあれは、さっきの騒動でなかったことになったじゃん。
「そんな焦る〜〜?」
「2人して頭いかれたやつになろうよ。まあさすがに、体育祭では踊らないけどさ」
「ダンスに誘うって意味知ってるでしょ?それに応えるって言う意味も、」
知ってるから困惑してるんだろうが!!こんなイベントに乗っかって…、乗っかるだけならまだしも、さらに冗談にしようとしてたんだよ私は。私が大っ嫌いなやつに自分がなってんだぞ。
「ね!桜」
笑顔向けんな。
「だーーーー〜、もう!」
「好きだよ、真菜」
「…えっと、ガチの方で」
「──知ってる!」
10/4/2024, 1:50:23 PM