依泡月夜

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5/9/2024, 10:27:10 AM

あの日々は夢のようでした。

閉塞感のある病棟であなたと出会った。
残り半月と言われていたわたしの命。
わたしを治すと約束したあなた。

わたしは誰からも必要とされない存在で。
あなたは誰もに好かれる素敵なひと。
惹かれていくのは必然でした。

あなたが内緒だと言って見せてくれたドラマはすごくおもしろくて。
楽しそうに笑うあなたの横顔は少しあどけなかった。
いつのひとりでいるわたしを気にかけてくれた唯一。
あなたがわたしの生きる意味でした。

なのにあなたはわたしを置いて逝ってしまいました。
わたしとの約束を果たした次の日に。
原因など知れています。
わたしの病気が悪いのです。
わたしが、悪いのです。

あなたは言っていました。

約束を守れたら色々な所を巡って、君が見た一番美しい景色を見せてくれ。

と。
なのでわたしは旅をします。
あなたに贈るための景色を。
あなたが救ってくれたこの命を使って。

あなたを忘れる人がいても。
わたしがあなたを覚えています。

だから、もう少し待っていてください。

5/8/2024, 11:36:03 AM

あなたと出会って一年が経つ。

わたしを見てくれたのはあなただけだった。
道端で蹲るわたしに手を差し伸べてくれたあの日。
はじめて世界が美しいと思った。

誰もがわたしをいないものとして扱う。
わたしが泣いたところで何も変わらない。
むしろ皆を傷付けてしまう。
生まれた意味なんて知らずに人形のように生きてきた。
それがとても窮屈で辛かった。

あなたの手がわたしの手に触れたとき人の温もりを知った。

奪ってばかりのわたしに優しさをくれたあなた。
今はもういないあなた。
わたしと出会ってしまったせいで温かさを失ったあなた。

わたしはあなたに救われました。
けれどあなたはわたしに奪われてしまいました。

願いが叶うのならば。
あなたがもう二度とわたしと出会いませんように。