忘れ物を取りに教室へ入る
しんとした部屋を夕陽が染める
校庭から聞こえる小さい声
昼間の騒がしさ息苦しさは全くなかった
早く帰らないといけないのはわかってる
だけど
やらずにはいられなかった
黒板にバカヤローと大きく書いた
学校が嫌いだった
この場所が嫌いだった
あいつらが殺してやりたい程に嫌いだった
そんな事書いたところで何かが変わる訳ではない
ため息をついて文字を消した
明日もここに来るのか
憂鬱な気分で夕陽に焼けた教室を振り返り
このまま燃やしてくれと思いつつ
そっと教室の扉を閉めた
「誰もいない教室」
子供の頃に家族で遊びに行った
今は無き遊園地
日が暮れて電飾に飾られて回る回転木馬
軽やかな音楽に合わせ
ゆっくりと動く馬と馬車
幼い自分には夢のような光景だった
これに乗ればシンデレラになれるかも
なんてバカなことを考えたのを覚えてる
時の流れは無情なもので
ニュースであの遊園地が閉園すると聞いた
あのキラキラ輝く回転木馬は
永遠に時を止め
夢の世界のみで回り続ける
「心の中の風景は」
記憶は美化されるものだけれども
それでも忘れられないものってあるよね
楽しかったこと
美味しかったもの
一緒にいた人が違うだけで
いつもの出来事も特別になる
憧れの先輩と一緒に
ポテトを食べながら歩いた帰り道
その日は何故か2人だけだった
優しくて背の高い人気のある先輩
ドキドキしながら
いつものように話しながら
特別な時間を喜んでいたっけ
いつまでもこの道が続くといいのにと
わざとゆっくり歩いてみたな
夕焼け空の下り坂を歩くと
その時のことを今でも思い出す
先輩の笑顔と夕日
どっちも眩しかった若かりし日の思い出
「きっと忘れない」
追いかけ走り抜ける雲の影
道の先に揺らめく陽炎
風に頷く大きな向日葵の花
蝉の大合唱に眩し過ぎる陽射し
昔から変わらない夏の風景
違うのは
夏休みだというのに子どもの遊ぶ声がないこと
変わったのは人の環境
自然の中思いっきり遊ぶというのは
もうできないのだろうか
木陰で伸びきっている猫を見て
まだまだ暑い日は続くのかと
秋を心待ちにしている自分に苦笑しつつ
麦茶を取りに冷蔵庫へと向かった
「足音」
何時だっただろう
記憶にあるあの日は
幼い日の暑い日としか覚えていない
知っているはずの小さな里山で
一人彷徨い歩き続けた
空はもう夕陽で染まり
夜の闇が迫りつつある中
知っているであろう木を探して歩き回った
背の高い雑草と枝の折れる音
鳥の羽音と風の音
怖くはなかったけど怒られるという恐怖
どうしようという焦りが大きくなっていった
風に押され草を掻き分け歩くうちに
いつも登っている木が見えてきた
帰れる!
後々考えると
あの里山は迷う程大きくもないし
後日遊びに行った時も
あんなに背の高い草はなかった
あの日の記憶は夢なのだろうか…
今も時々思い出す
あの暑い日の出来事
「終わらない夏」