「マリアが私達の血の繋がった子どもじゃなかったって、私達が洗脳されていたって、それでもあなたは可愛い私たちの娘よ!」
「ママ……」
「そうだ、帰ったらマリアの大好きなケーキを作ろう。きっと美味しいよ」
「パパ……」
「マリアちゃん、行こう!」
「うん、行ってきます!」
そしてマリアはみんなの願いの力を集めて強大な悪の組織を倒し、世界に平和をもたらしましたとさ。
ここからはもう一つの物語。
「どうしても取り戻したいものってあるだろ?」
静かな監獄で、青年は魔法警官へ聞いた。
「俺にもそれがあってさ」
何を、と聞こうとして警官は囚人との私語が禁止されていることを思い出し口を噤んだ。
「国の要たる魔法少女。なんで俺がそいつらを殺そうとしたと思う?」
「……お前は愉快犯だと聞いているが。」
「あ、やっと話してくれた。愉快犯?全然違うよ」
「じゃあお前の動機は何なんだ。」
今日聞いた話を上官へ報告すれば、もしかすると魔法少女暗殺未遂事件の解決の糸口になるかもしれない。
警官は話を聞くことにした。
時計の音とテレビの音声だけが聞こえる部屋で、少年は何もせずに寝転がっていた。いくらテレビでニュースを見たって、親のことは何も分からない。
少年の親が失踪してから5日。体力の限界であった。
その時、声が聞こえてきたのだ。
猫のようなものは自分を悪魔だと言った。
悪魔は色々なことを教えてくれた。
魔法の使い方。お湯の沸かし方。食器の洗い方。
しばらく悪魔と暮らしていた時、たまたま街で両親と出会った。話しかけても向こうは首を傾げるだけだったが、彼らが親で間違いが無いはずなのだ。だって顔も名前も一緒で、好きな食べ物だって一緒で、得意料理だって同じなのに。僕の名前だけ覚えていなかった。あの時はとても悲しかったよ。それからどうにか説得を試みていたら向こうから「パパ?ママ?」って声が聞こえてね。
それが、君達が言う魔法少女マリアだったんだ。
その夜に悪魔が僕のお父さんとお母さんは洗脳されてる事に気づいたんだけど、その魔法をかけた人のヒントは何も無かったけど、俺はこう思ったんだ。
「魔法少女マリアが僕の親を奪った。」
「だが、洗脳魔法を掛けた人物がマリアだと決まっていないだろう。魔法少女暗殺をして良いことにはならない。」
「ああ、確かにその魔法は確かにマリアじゃなくて、マリアについてる天使の仕業だったんだけどね。何も分からない少年がそんなこと考えられると思うかい?」
「…無いな。」
「わかってくれて嬉しいよ」
それから暫く経って、君達の言う悪の組織が設立された。そこの人達はみんな魔法少女に何かを奪われた人達だった。でも奪われたものを取り戻そうとしたって、僕達以外はそもそもそうであったと認識できない。例えば、僕の親みたいに。それから、僕達…俺たちは仲間を集めた。魔法少女に恨みがある人を沢山スカウトした。あの頃は楽しかったな。本当の家族みたいにみんなで設立記念パーティー……パーティーと言ってもコンビニのお菓子とかだったんだけど、美味しくて、楽しくて、それで……
「ごめん待ってくれ。このパートは要らなかったな」
「いいや、悪の組織については情報が少ないんだ。」
だから早く話して、と言おうとした口を遮られた。
「囚人相手に鍵を開けちゃあ駄目だろう、こんな風に逃げられてしまうぞ」
息ができない。くびをしめられている?
すんでのところで首にかけられた指の力が抜ける。
「楽しかったよ看守さん、もう会わないことを祈っている。」
窓の外に停止している小型飛行機に乗った彼はこちらを1度振り向き、飛び立って行った。
「こりゃあ減給かな……」
通り雨が迂回してくれたら濡れずにすんだのに。
雨の日の静けさが好きだ。世界に自分一人しかいない気がして心が少し軽くなる。でも、濡れるのは昔から嫌いだった。靴を乾かすのはめんどくさいし、どこ歩いてきたのって怒られるし。バスに揺られながら窓の外を見る。やっぱり車が多い。
無意識にため息が出た。
雨の日は好きだ。静かで、おだやかで。
落ち着くはずなのにどうしても消えたくなる。
このまま雨の静けさと共に消え去ってしまいたい。
叶うことなら、この水滴のひとつになりたい。
もう、学校なんて行きたくない。
家にだって帰りたくない。
強い酸性雨だったら私を溶かしてくれるんだろうか。
通り雨、私も連れてって。
なんちゃって...
声が聞こえた。
『卒業旅行のオススメ』という記事を見つけた。
そろそろ卒業式の季節か。パソコンから手を離して背中を伸ばす。この前まで雪かきで忙しかった気がするのだが、歳をとって時間の流れが早くなったのだろうか。そういえばあの学校、いや部活を卒業してから今年で3年になる。ふとそう思いつき、引き出しをあさる。そうして取り出したのは押し花の栞だ。
少し、あの頃を思い出してみよう。
私の…いや、今はあの頃と同じ俺を使ってみよう。
俺は成績も運動も普通の、そこら辺によく居る男子高校生だった。この高校だって夢とかじゃなくて、学力的に行けそうなところを選んだだけで、今思うとかなり無気力で、つまらない人生を歩んでいたと思う。
彼女達に出会ったのはそんなときだった。
「ごめんほんと頼む…」
顔の前でいただきますのポーズをしながら頭を下げる彼とは結構仲が良かったから、すぐにでも了承したい所だったが、今回はそうにもいかない。
この高校には変なルール(あくまで私基準)があり、必ず部活に入らなくてはいけない。運動部は遠慮したかったので、適当に美術部あたりに入ろうと思っていた。一方で新しい部活を作ることもできる。ただし、部活を作るには最低4人のメンバーが必要である。ここまで来ればわかったと思うが、彼は俺にその新しい部活に入って欲しいのである。問題はその部活が、
「七不思議研究部って小学校かよ…」
七不思議研究部なのである。
「ほんと頼む!あと一人なんやって」
「お前友達多いんだから俺以外に頼めるだろ」
「いいや、お前しか居ないね」
なんでそんなに、と言うと彼が口を開いた。
「俺、幽霊っていうの?見えんねん」
「は?」
衝撃の告白。待ってくれ、俺もう厨二病卒業したぞ。でも悲しいことに彼は嘘をつくようなやつじゃない。
俺は色々考えた。考えて、思った。非日常で楽しい毎日が過ごせるんじゃないか?そう、当時の俺は厨二病が抜け切っていなかったのである。
「…うん、おけ」
「え、まじ?信じてくれるん?」
「だってお前そんな嘘つかないじゃん」
今のとこ名前貸す方向な、と付け加えておく。
「じゃあ放課後、玄関横の事務室集合な!」
七不思議研究日誌 1日目 プロローグ
空が泣いている。正直泣かないで欲しい。
毎日傘を持ち歩いてる訳じゃないし、
スマホが濡れて壊れたらどうしてくれようか。
小学生のころ、雨の中泥遊びをしていたクラスメイトがこう言っていた。雨はかみさまの涙だって。
こんなにいっぱいの水を流すなんてかみさまは泣き虫なんだな。梅雨の季節とかは毎日泣いてるのか。
神様がいるのかは知らないし、
雨の原理だって理科の授業で聞いた。
でも天気予報が当たらない日は泣いてるんだろう。
晴れたら話を聞いてやるから
今はティッシュのてるてる坊主で勘弁してくれ。
突然の君の訪問。
理由はわかってるけど、知らないふりをさせてくれ。
「別れたいと思ってる」
「…うん。」
頷くことしか出来ない僕に、君は微笑みかけた。
「あなたは何も悪くない。私のせいよ」
君はいつもそうだ。
自分のせい自分のせいと、自己評価が低すぎる。
君は、君はもっと自分を大切にしないと。
「って言うところが嫌だったんだろうか」
何年も連れ添った君の跡を見る度、考えてしまう。
キッチンにあったお揃いのマグカップ。
誕生日プレゼント、何が欲しいかわからなくて。
でも一生懸命選んだ思い出のマグカップ。
君が本当に欲しいものを、僕はあげられなかった。
夕焼けがさすカーテンは、珍しく君が選んだもの。
この柄が好きなのかは未だに分からないけど。
そうそう、このカーテンを経たあとの誕プレは、
似たような柄の物にしたけど、変な顔されたっけ。
思い出すたびに、胸が締め付けられる。
なんでもっと。なんであんなこと。
そればっかり。
楽しい思い出もあったはずなのに、
思い出せるのは失敗の日々ばかり。
思えば、君に迷惑ばかりかけてしまった。
こんな男と付き合い続けるのは、
きっと彼女のためにならなかった。
それをうだうだ続けて。
未練たらたら後ろ髪を引いて。
恥ずかしくないのか。ああ、恥ずかしいさ。
それでも君と居たかった。
君のかたちが、君の温度が、少しづつ消えていく。
カーテンが揺れたので、窓を閉めようと立ち上がる。
「もう、いないんだね」
悲しいけれど、それが現実だ。
きっと君は微笑みを僕じゃない誰かに向けている。
それがどうにももどかしくて、気持ち悪くて。
「失恋ってこういうことか」
と一人納得がいったのであった。