声が聞こえた。
『卒業旅行のオススメ』という記事を見つけた。
そろそろ卒業式の季節か。パソコンから手を離して背中を伸ばす。この前まで雪かきで忙しかった気がするのだが、歳をとって時間の流れが早くなったのだろうか。そういえばあの学校、いや部活を卒業してから今年で3年になる。ふとそう思いつき、引き出しをあさる。そうして取り出したのは押し花の栞だ。
少し、あの頃を思い出してみよう。
私の…いや、今はあの頃と同じ俺を使ってみよう。
俺は成績も運動も普通の、そこら辺によく居る男子高校生だった。この高校だって夢とかじゃなくて、学力的に行けそうなところを選んだだけで、今思うとかなり無気力で、つまらない人生を歩んでいたと思う。
彼女達に出会ったのはそんなときだった。
「ごめんほんと頼む…」
顔の前でいただきますのポーズをしながら頭を下げる彼とは結構仲が良かったから、すぐにでも了承したい所だったが、今回はそうにもいかない。
この高校には変なルール(あくまで私基準)があり、必ず部活に入らなくてはいけない。運動部は遠慮したかったので、適当に美術部あたりに入ろうと思っていた。一方で新しい部活を作ることもできる。ただし、部活を作るには最低4人のメンバーが必要である。ここまで来ればわかったと思うが、彼は俺にその新しい部活に入って欲しいのである。問題はその部活が、
「七不思議研究部って小学校かよ…」
七不思議研究部なのである。
「ほんと頼む!あと一人なんやって」
「お前友達多いんだから俺以外に頼めるだろ」
「いいや、お前しか居ないね」
なんでそんなに、と言うと彼が口を開いた。
「俺、幽霊っていうの?見えんねん」
「は?」
衝撃の告白。待ってくれ、俺もう厨二病卒業したぞ。でも悲しいことに彼は嘘をつくようなやつじゃない。
俺は色々考えた。考えて、思った。非日常で楽しい毎日が過ごせるんじゃないか?そう、当時の俺は厨二病が抜け切っていなかったのである。
「…うん、おけ」
「え、まじ?信じてくれるん?」
「だってお前そんな嘘つかないじゃん」
今のとこ名前貸す方向な、と付け加えておく。
「じゃあ放課後、玄関横の事務室集合な!」
七不思議研究日誌 1日目 プロローグ
空が泣いている。正直泣かないで欲しい。
毎日傘を持ち歩いてる訳じゃないし、
スマホが濡れて壊れたらどうしてくれようか。
小学生のころ、雨の中泥遊びをしていたクラスメイトがこう言っていた。雨はかみさまの涙だって。
こんなにいっぱいの水を流すなんてかみさまは泣き虫なんだな。梅雨の季節とかは毎日泣いてるのか。
神様がいるのかは知らないし、
雨の原理だって理科の授業で聞いた。
でも天気予報が当たらない日は泣いてるんだろう。
晴れたら話を聞いてやるから
今はティッシュのてるてる坊主で勘弁してくれ。
突然の君の訪問。
理由はわかってるけど、知らないふりをさせてくれ。
「別れたいと思ってる」
「…うん。」
頷くことしか出来ない僕に、君は微笑みかけた。
「あなたは何も悪くない。私のせいよ」
君はいつもそうだ。
自分のせい自分のせいと、自己評価が低すぎる。
君は、君はもっと自分を大切にしないと。
「って言うところが嫌だったんだろうか」
何年も連れ添った君の跡を見る度、考えてしまう。
キッチンにあったお揃いのマグカップ。
誕生日プレゼント、何が欲しいかわからなくて。
でも一生懸命選んだ思い出のマグカップ。
君が本当に欲しいものを、僕はあげられなかった。
夕焼けがさすカーテンは、珍しく君が選んだもの。
この柄が好きなのかは未だに分からないけど。
そうそう、このカーテンを経たあとの誕プレは、
似たような柄の物にしたけど、変な顔されたっけ。
思い出すたびに、胸が締め付けられる。
なんでもっと。なんであんなこと。
そればっかり。
楽しい思い出もあったはずなのに、
思い出せるのは失敗の日々ばかり。
思えば、君に迷惑ばかりかけてしまった。
こんな男と付き合い続けるのは、
きっと彼女のためにならなかった。
それをうだうだ続けて。
未練たらたら後ろ髪を引いて。
恥ずかしくないのか。ああ、恥ずかしいさ。
それでも君と居たかった。
君のかたちが、君の温度が、少しづつ消えていく。
カーテンが揺れたので、窓を閉めようと立ち上がる。
「もう、いないんだね」
悲しいけれど、それが現実だ。
きっと君は微笑みを僕じゃない誰かに向けている。
それがどうにももどかしくて、気持ち悪くて。
「失恋ってこういうことか」
と一人納得がいったのであった。
死にたいは生きたいの裏返しじゃなくて、
死にたいと生きたいはたぶんイコール。
周りがきらきら生きてるのを見ると死にたくて、
周りがどよどよ死んでるのを見ると生きたくて。
死ぬのは怖いけど、
明日からも生きるなんて泣きそうで。
もう無理だって何回考えただろう。
何回腕にカッターを当てた?
何回首にカッターを走らせようとした?
そんだけしたって死ねなくて。
笑われてる気がする。
社会から指さされてる気がする。
私は、ちゃんと生きれてる?
空模様はどんよりしてて、今の私よりは軽そうな雲。
やらなきゃ行けないことはいっぱいあるのに、
なにもできない。しようとすらできない。
みんなそれを夏バテだなんていうけど、
私、このまま終わっちゃうのかな。
何もなせずに、何もできずに。
それは嫌だけど、
ほんとうになにもできない。
昔プールで溺れた時みたい。
あの頃からなのかな。
なにをやってもおまえはだめだなんてちっそくかん。
それでもわたしをみていてほしいなんて、
きたいしてほしいだなんて。
早く、流木につかまらせて。
そしたら息ができるかも。