みつきなこ

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7/11/2024, 1:18:36 PM

『目が覚めると」

※一つ前のお題です。間に合いませんでした💦
※BLです。苦手な人は読まない様にお願いします🙇


カーテンの間から眩しい光が差し込み、窓の外の鳥の声が聞こえて来る。

目覚ましより先に目が覚めるのは珍しいなと思いながら、目を開けると

「おはよう」

「……?!?!」

「驚かせちゃった?ごめんね、起こして来いって言われたからさ」

朝の準備がバッチリ整っている感じの聖哉《セイヤ》さんがニコニコ顔で言う。

「えっと……。ちょっと待って下さい。今何時ですか?」

寝起きで頭が回らない。

「6時30分だね」

「6時30分……。え、アラーム6時にセットしてるのに鳴らなかった?!」

慌てて、ベッドのサイドテーブルに置いているスマホを取ろうとする。

すると、伸ばした手をソッと握られる。

「アラームはね、一瞬鳴ったんだけど止めちゃった」

テヘッといたずらっ子の様に笑う。

あぁ、こんな天使の様な顔で暴露されたら怒るに怒れない……!

「母さんが蒼汰《ソウタ》を起こして来いって言うから。一応ノックはしたよ。で、起こそうと思ったんだけど、幸せそうな寝顔を見たら起こせなくて……」

「そ、そうですか。いいですよ。6時のアラームでも起きるのは大体6時30分ですし。起こしてくれてありがとうございます!」

「許してくれる?ありがとう。これからは蒼汰くんを起こすのは俺の仕事にするね」

「え、大丈夫、大丈夫です!俺、寝起き悪いし、アラームでいつもちゃんと起きれてるし、放っておいてくれて大丈夫です!」

この整った顔を毎日朝一に見るなんて、そんな心臓に悪い事出来ない!!

両手を振って拒否すると、聖哉さんは目に見えてシュンと項垂れた。

うぅっ!罪悪感……。

「ダメかなぁ?今日は誘惑に負けたけど、明日はちゃんと6時に起こすから」

上目遣いにお願いされる。

あれ、朝起こしてもらうのってこんなに大事な事だっけ?

そう思いながら

「分かりました。じゃあ、明日も宜しくお願いします!」

撤回しないと、一日ずっとシュンとしてそうで、慌てて、訂正する。

はぁ、朝起きたら、聖哉さんが俺の部屋に居るの?

こうして、覗き込まれておはようって言われるの?想像しただけで無理だ……。

まず、俺の寝顔が……。幸せそうって言ってたけど、ただのアホ面でしょ。

明日からは6時よりも前に起きよう。

アラームより遅く起きる事はあってもアラームより先に起きる事はほとんどない俺が誓った。

1階に降りるとパンが焼ける香ばしい香りとコーヒーの良い香りがしていた。

「蒼汰くん、おはよう。昨日は引越しの片付けしたりで、まだ疲れが残ってるんじゃない?朝食はトーストとサラダとコーヒーでいいかしら?和食が良かったら明日から和食にするわよ」

ふんわりとした髪を揺らしながら、ニッコリ微笑む美人は、この度、俺の父親と再婚した新しいお母さん。

聖哉さんは、この美人のお母さんの息子さんだ。納得。

「俺、今まで朝ご飯は食べてなかったので、朝からこんなにしっかりした朝ご飯食べれるの嬉しいです!!ありがとうございます」

「あら、そうなの。育ち盛りだから朝ご飯はしっかり食べてね」

はぁぁ〜、こんな美人の手料理にこんな優しい言葉……父親に大感謝だ!!

席に着いて、トーストを頬張る。

隣からスッと手が伸びて、俺の頬に付いたジャムを長く綺麗な指で掬い取り、

「付いてた」

と、いつの間にか隣に聖哉さんが座っていた。

「唇の端にも付いてる。舐めたいけど我慢」

クスッと笑って俺を見る。

顔に熱が上がるのを自覚しながら、慌ててティッシュを取ってゴシゴシ口を拭く。

「そんなに乱暴に吹くと赤くなるよ」

聖哉さんは、最初見た時は、優雅で聖哉さんの周りだけ時間の軸がゆっくり動いてるのかなって言う程、纏ってる空気が違っていて、長めのサラサラの髪を耳に掛ける姿とか、男女問わず人を魅了して仕方がない存在だ。

そんな聖哉さんは、義弟が嬉しいらしく、顔合わせの時から、ずっと俺にベッタリなのだ。

ふふっと笑った顔も魅惑的で、ドキッとする。

ジャムを付けない様に気をつけても、たっぷり塗ってあるので難しい。

見ると、聖哉さんはサラダとコーヒーだけの様だった。

お母さん、俺が甘い物好きなの知って、ジャムたっぷりで準備してくれたんだ。

胸がジンと暖かくなった。

「通学は電車だっけ?」

「はい、そうです」

「じゃ、駅まで送るよ」

聖哉さんが長い指に絡めた車のキーを見せる。

くぅっ!何をやってもサマになる!

聖哉さんは、社会人で高校3年の俺とは5つ違う。

聖哉さんの運転する姿は見たいが、2人きりは緊張しそう……。

でもここまで言ってもらって断れないし……と、車に乗せてもらう。

車の免許無いし、そんなに興味も無かったから、車種とか分からないけど、何だこのフッカフカのシート!!

良い香りするし、広い!!

快適だ〜と思ってたら、まだ引越しの準備の疲れが残っていたのか、俺はウトウトと眠ってしまった。

駅までの話が、どうも聖哉さんは最初から学校まで送るつもりだったらしく、駅までなら起きてたはずなのに、学校までは4駅もあるので、快適車だと眠ってしまったのだと言い訳しておこう。

「蒼汰くん、蒼汰くん。起きないならイタズラしちゃおうかな」

頬ににサラサラとした毛の様な物が当たる。

柔らかくて気持ちいいな……。

まだ微睡んでいたいけど、ゆっくりと目を開ける。

目が覚めると……。

「うわっっ!!!!せ、聖哉さん?!?!」

あまりにも間近に整った顔があったので驚いた。

「ははっ、あと少しだったのに」

「あと少しって何ですか!!」

「ふふっ、また次の楽しみにしておくね。だって俺は、蒼汰くんを起こすのが仕事だから」

え、これ起こされる度、ドッキリさせられるの?!

きっと、帰ったら、聖哉さんに構われて、疲れてぐっすり眠り、そしてまた明日目が覚めると……。


〜END〜

お読み頂き、ありがとうございました。

7/4/2024, 1:12:11 AM

「この道の先に」


道は一つじゃない事は知っている。

でも知らない道を進むのは迷いそうで怖い。

慣れた道が一番良い。安心安全が一番だ。



「あ、工事今日からだったのか」

いつもの決まった通学路を歩いていたが、通行止めの看板に行き当たった。

学校から迂回路の知らせが来ていたが、あまりよく見ていない。

時間に余裕はあるのだが、迂回するとどれ位の時間を取られるか分からない。

ここから迂回しても最短で行ける道は……。

頭の中で地図を広げる。

「あ、通行止め今日からか!」

大きな声に驚いて振り向くと、地毛と言うが俺は信じていない明るい茶色の髪に同じ色の愛嬌のある瞳、やや太めのキリッと釣り上がった眉に通った鼻筋、身長も178cmと長身で妬ましくなる容姿を持つ男が立っていた。

ゲッ!あまり関わりたくないクラスメイトと一緒になってしまった。

俺に気付かず行ってくれと心の中で祈るほどだった。

「中西じゃん!中西も俺と仲間か!ラッキー!一緒に行こうぜ!」

この軽いノリが嫌なんだ。

見た目も……。

「ネクタイちゃんとしろ。靴の後ろを踏むな」

「わー、朝から色々見てくれてる。やったぜ」

「いや、見てない。目に付くだけだ。直せ」

これが俺と大石の毎朝のやり取りだ。

ネクタイは持っていて、いつもポケットに入れているのを知っている。

「はい、どーぞ」

ニコニコしながらネクタイを渡してくる。

「昨日が最後って言ったぞ、自分でやれ」

「ネクタイのやり方忘れたんだよな〜。やってくれないならいいや。遅刻するから行こうぜ」

靴だけ履き直して歩いて行こうとする。

俺はため息をついて靴は直したからヨシにするかと

「貸せ。今月中にネクタイ覚えろよ。来月からはやらないからな!!」

とネクタイを奪い結んでやる。

「よし、で、迂回路はどの道だ?」

「あの道行こうぜ」

「あんな細い道を迂回路にはしないだろ?」

「でもあの道が絶対最短だ」

何を根拠に最短と言うのか分からないが、大石は細い道に行ってしまう。

学校指定の通学路以外で事故でも遭ったらどうするんだと思いながらも、1人放っておくわけには行かず付いて行く。

細い道は小さな川に沿っていて、2人並んで歩ける道幅で、車は通れず、なかなか良い散歩道になっていた。

「この道良いな」

嬉しそうに大石が言う。

「そうだな。初めて通るがなかなか良いな」

川の水は澄んでいて、小さな魚の影も見えた。

「あ、猫だ」

川の反対は、人が居るのか居ないのか築年数の多そうな家が数軒あり、塀の上に丸くなった猫が俺たちを見下ろしていた。

「逃げるかな」

そう言いながら、そうっと大石が手を差し出すと猫はスリッと顔を擦り付けてきた。

「お、可愛い!人馴れしてる。中西も触ってみ」

実は猫好きなんだ。触りたい!!

言われて、そっと手を差し出してみると、ザリっとした舌で舐められた。

「朝ごはんの匂いが付いてたかな?」

大石が揶揄う。

「この辺、猫多そうだな。あそこ子猫が居るわ」

大石に言われ、見てみると2匹子猫が並んで座りこちらの様子を見ていた。

ここは天国かな。

妹が猫アレルギーで猫が飼えないのを残念に思っていたが、こんな良い散歩コースを発見するなんて……!

「この道通って良かっただろ!明日はまた違う道行ってみようぜ」

大石が胸を張って言う。

俺だけだったらこの道は通らなかっただろう。

無難な安全な大きな道を通り、ただ足を動かして学校に着いていた事だろう。

今日がたまたま良い道だったのだと思うが、明日違う道を行くと聞いてワクワクしてしまった。

この道も俺1人だと猫に気が付かなかったかもしれない。

大石が居たからこの道が好きになったのだと思った。

「よし、ここ入ってみよう」

「おい、遅刻するだろ。そこに行きたいなら早い時間に家を出ろ」

すぐ横道に逸れようとする大石を止める役割も必要だ。

うんうん、と俺は自分の必要性を見出した。

「チェッ!今ならどこでも付いて来ると思ったのにな!じゃあ、明日は少し早めに家を出るか。時間決めようぜ!」

工事の間だけだとは思うが、俺は大石と一緒に学校に行く事にした。

明日はどの道を行こうか……。

いつも1人だった道。

これからは変わる。

この道の先に



〜END〜


読んで頂き、ありがとうございました😊

7/3/2024, 2:28:59 AM

「日差し」

(「赤い糸」の2人のその後のお話です。BLですので、苦手な人は読まないで下さい🙇)


何もかも、この強い日差しのせいなんだ!


あの時は周りが気にならなかったが、今思うと顔から火が出そうな体育祭。

隼斗と一緒に居ると冷やかされたりしたが、嫌がる俺の姿を見て隼斗の威嚇が思った以上の効果を発揮し、あれから3ヶ月ーー今はもう誰も何かを言ってくる事はない。

赤いハチマキを運命の赤い糸とか言うのが紛らわしかったんだ!

結局の所、先輩と後輩。隼斗と俺の関係は何も変わらない。

まぁ、少しだけリレーで真剣に走る隼斗をカッコいいと思ったり、違う階の俺の所までわざわざ来る所が可愛い奴だと思ったりしなくもない。

少しだけ、俺の中で隼斗の立ち位置が変わったかなと言う感じかな。ほんの少しだけな!!

隼斗も今までと何も変わらない。

「今日も俺の好きなゆいちゃんだ」

「はいはい、どーもどーも」

隼斗の『好き』は一日一回以上出るので、もはや合言葉だ。

ただ、ちょっとスキンシップが増えた感はある……いや、ちょっとじゃないな、俺今羽交締めにされてるからな!!

「これ見て誰も何も言わないし、助けないのどうかと思うんだが……。いい加減離れろよ!梅雨も明けて夏本番なのに暑苦しい!!」

「だって、ゆいちゃん、この前の体育祭から注目浴びてるし、俺のってアピールしとかないと……」

「誰のせいで注目浴びて、誰のせいで現在進行形なのかって話なんだけど?!隼斗が居なければ俺は目立たない地味人間ですけど?!」

「そんな事ないよ!ゆいちゃんは自分を分かってないからなぁ」

「大体、俺のって何だよ。俺は物じゃ無いし、隼斗に所有された覚えもないんだけど?」

「運命の赤い糸を受け入れてくれたんじゃないの?ゆいちゃんが意識してくれるまで待つつもりでは居たけど、ゆいちゃんの中では、何も変わらないんだな……」

ハチマキは隼斗が勝手に腕に巻いただけじゃん。意識って何をだ?何も変わらないって……変わる訳ないだろ!

何?運命の赤い糸を受け入れたって男同士で付き合うの?冷やかしあったけど、睨んで潰してたの、冗談言うなって事だろ?違うのか?

俺は隼斗に何をどう言えば良いのか分からず混乱する。

そんな俺を見て少し寂しそうに笑うと隼斗は俺に背を向けて歩いて行った。

その日から、隼斗は俺の所に来なくなった。

派手な一年生が三年生の階に来るのが日課になっていたのが、パタリと来なくなり、俺だけじゃなく、他の人らも違和感があるらしい。

「悠一、あの派手な一年もう来ないの?存在感あり過ぎて、なんか居ないと不思議な感じする」

「知らねぇよ。もう来ないんじゃないの?」

適当に返事する。

いつも休憩時間にベッタリくっついて来るので、居ないと休憩時間が長く感じる。

ジュースでも買いに行くかと、一階まで下りると、一年生の賑やかな声が聞こえた。

廊下で固まってる一年生を見つけると、その中に真っ赤な頭が他より飛び出て目に入った。

俺と話してるよりも楽しそうではあるが、どこか意地が悪い様な、柔らかさが無くなっている様な表情の隼斗。

周りは楽しそうに笑ってるけど、隼斗の目は笑ってない様に見える。

でも、一年同士でつるむのが一番だよな。俺は来年卒業して居なくなるんだし……。

隼斗に見付からない様に自販機がある方へ向かう。

ジュースを買ったが、3年の教室に戻りたくないので、そのまま中庭の木陰にあるベンチに横になる。

「暑い……」

木陰でも葉と葉の隙間だったり、枝の長さが足りなかったりで、所々夏の強い日差しが降り掛かる。

暑いが起きるのも面倒で、もういいやとそのまま我慢して横になったまま目を閉じる。

どれ位経ったか分からないが、ふと日差しにジリジリ焼かれている部分が無くなったなと不思議に思い目を開ける。

と、目の前に隼斗の顔があり、ビックリする。

日差しが当たる所に手を当てて影を作ってくれてたらしい。

そして、俺は隼斗に膝枕をされていた。

「おはよー」

一方的に離れたクセに何もなかった様に普通に挨拶された。

座ってる分、木陰から出てしまい、手は俺に掛かる日差しの影となり、隼斗はほぼ全身強い日差しを受けていた。

鼻の頭に汗をかいていたが、気にせず俺に笑い掛けている。

あぁ、もう!!

隼斗の言う意識って言うのは何か分からないけど、愛おしい気持ちと言うのはこの事だろうと思った。

「隼斗」

俺は腕を伸ばして隼斗を抱きしめた。

「ゆいちゃん?!」

「……暑い……。お前、熱中症になるだろ?!ほら、ジュース飲め!」

「俺、暑さに強いから大丈夫!ゆいちゃん、寝れた?

……あれ?影にしてたはずなのに、顔赤すぎない?大丈夫?」

「影に居ても暑いものは暑いんだよ!日差し強すぎな!もう外で寝るのは無理だな、うん!」

隼斗の顔が見れなくて、早口に言ってその場を去ろうとする。

「あ、ゆいちゃん待って!一緒に行こう」

腕を掴まれ、そのまま手を繋がれる。

俺の顔は更に赤くなった気がする。

「ゆいちゃん、可愛い。今日は日差しが強すぎたね」

その言い方、気付かれたのではと思ってしまう。

「そうだ!今日は日差しが強すぎるんだ!」

茹でダコの様な顔をしているだろうと、俯きながら、手も汗ばんで気持ち悪いだろうなと思いながらも繋いだ手は離せず、そのまま一緒に歩いて行く。

一度愛おしいと思ったら、その気持ちは消える物ではない。

でも、俺はまだこの顔の熱は夏の日差しのせいにしておきたいと思った。


〜END〜

今回のお題は難しくてまとめるの大変でしたが、なんとか書き切れて良かったです。
お読み頂き、ありがとうございました😊

7/2/2024, 1:31:41 AM

「窓越しに見えるのは」


教室の後ろから3番目の窓際の席。

今日も幸せそうに窓の外を見ている。

窓越しに見えている物は、普段は立ち入り禁止で、大掃除の窓拭き位しか使われていないベランダと中庭が気持ち見える位だ。

ベランダが無ければ中庭の全体が見えて良い景色だっただろう。

そんな残念な景色をこうしてたまに幸せそうに見ているのだから不思議だ。

ボーッと見ている時と、こうして何かに気づいて幸せそうな顔をする時があるので、鳥でも来てるのかなと思っている。

水名瀬君は動物が好きだからな。

窓の外を見てくれてたら、少し離れた俺の席から水名瀬君の横顔が見れるから、何だって良い。

退屈な国語の授業を終え、昼休憩だ。

「水名瀬ー!昼どこで食う?」

水名瀬君の席はアッと言う間に人で囲まれる。

俺はそれを見ながら自分のカバンを持ってソッと教室を出る。

水名瀬君を中心にいつも人が集まっている。

対する俺は未だにクラスに馴染めず1人が多い。

入学式の時は水名瀬君、代表で挨拶してカッコ良かったなぁ……。

移動教室で迷ってしまった時も、俺を見つけて案内してくれたし……。

俺の事ちゃんとクラスメイトとして認識してくれてた事にビックリだったけど、さすがだよなぁ。

ほんのちょっとした出来事しか無いのだけど、そのちょっとした事が俺にとっては大事件で、ずっと大事に心の中に抱えてる。

来年は違うクラスかもしれないんだから、せめて挨拶する関係にはなりたいと思っているのだが、そのハードルが高い。

ため息を吐きながら中庭でお弁当を食べていると、スリッと俺の腕に頭を擦り付けてくる。

「あ、お前いつもどこに居るんだよ。待ってろよ、今日はちゃんとお前用の猫缶持って来たんだぞ」

中庭に居ると、どこからともなくやって来るハチワレ猫。

あちこちで良い物もらってそうな恰幅の良い姿だが、可愛くてついつい何か与えてしまう。

「明日はちゅ〜るにしようかな」

ガツガツ食べている猫を見ながら嬉しくて明日の事も考える。

毎日この猫が来てくれるから、俺のお昼は寂しくない。

「ちゃんと噛んで食べろよ〜」

豪快に食べる猫に声を掛けながら自分もまたお弁当を食べ始める。




「あ、またあの猫と居る」

「何?」

「いや、何でもない」

何で俺の周りはこんなに人が集まるんだか……。

俺だけだったらあそこに座って一緒に猫と戯れてるのに……。

あの笑顔良いなぁ。

声を掛けても大体俯いてしまって顔もまともに見れた事ない。

「水名瀬、もう教室行く?」

「あぁ、そうだな。もう行っとくか」

もう少しコッソリ見たかったけど、他の奴らに見つけられるのも嫌だし、中庭から離れる事にした。




午後の睡魔との戦いの授業が始まる。

この席になってから、つい窓の外を見る癖が付いてしまった。

中庭が見えたら良いのに、半分はベランダで消されている。

と、ヒョイッとハチワレ猫がやって来て、だら〜んと伸びて横になる。

この猫、緊張感無いよな。

この媚びないマイペースな所が、自然と受け入れられたのかな……。

今日も猫と戯れる姿良かったなぁ……。




あ、また鳥でも来たのかな?

水名瀬君が幸せそうな顔をしてる。

いいなぁ、俺もあんな風に見つめられたい……なんてね。


窓際に見えるのは……
2人の思いなんて知ったっこっちゃない、毛繕いに必死なハチワレ猫様でした。


〜END〜

読んで頂き、ありがとうございました😊

7/1/2024, 1:31:45 AM

「赤い糸」


「ゆいちゃん、今日委員会何時まで?」

「ゆいちゃんじゃねぇ!俺の名前は悠一だ!勝手に短くするな!!」

「違うと言ってもちゃんと返事してくれるの好き!小さい時は『ゆういち』が言えなくて『ゆいち』になってて、ゆいちゃんが『ゆいで良いよ』って言ってくれたじゃん。優しかったな〜!今も優しいけど。大好き!!」

「あーー!!うるさい!うるさい!!男に好きって言われても全く嬉しくない!!隼斗はもう終わりだろ?サッサと帰れよ!じゃあな!!」

俺の方が2学年も上で、階が違うと雰囲気も違うので、なかなか他学年が来る事は無いのに、隼斗は動じることなく、事ある毎に3年の階にやって来る。

どちらかと言うと、隼斗が来ると、3年生の方が隼斗を敬遠している。

隼斗は見た目が派手なので、黙っているとそのキツイ雰囲気に圧倒される。

180cmを超える長身に、真っ赤な髪、ピアスを右に4つ、左に3つ開けている。

目は大きく可愛らしいが、唇は薄く、睨みを効かせれば目が大きい分、眼力が凄い。

幼い隼斗を知らなければ、俺だって隼斗を敬遠して口をきくことは無かっただろう。

どこだ……どこで、俺は道を間違えたんだ!

思えば隼斗とは幼稚園も小学校も違う。

なのに、どうしてこんなにも絡まれるんだ……!!

もう10年以上前になるので、記憶も朧げだが、思い当たるのは、幼稚園の運動会の帰り……。

年長の幼稚園最後の運動会は、かけっこで一番になり、とても気分が良かった。

嬉しくて、かけっこで使った赤いハチマキをしたまま、父と母と手を繋いで歩いて帰っていた。

俺の通っていた幼稚園の近くに保育園があり、その近くの公園で泣いている男の子が居るのに気がついた。

すぐ側でその子のお母さんがしゃがんで何か言っていたが、男の子の泣き声が大きくて届いていない様だった。

どうもこけたみたいで、膝から血が出ているのを目にした。

運動会の興奮が抜けなかったのか、俺は何故か衝動的にその子の所まで走って行き

「僕の一番あげる!!」

そう言って、赤いハチマキを外してその子の手に渡してあげたんだ。

その子は驚きの方が大きかったみたいで、涙が止まってた。

「かけっこで一番になれたんだ!赤いハチマキカッコいいだろ?あげる!」

俺は胸を張って言っていた。……今思うと、とても小っ恥ずかしい……。

「かけっこで一番……。赤いハチマキ……」

その子は俺の言葉を繰り返し言うと、ハチマキをジッと見つめ、そして俺の方を向き直って

「一番、カッコイイ!赤、カッコイイ!!僕、お兄ちゃんみたいになりたい!!」

キラキラした瞳でそう言われたら気分が良くならない人は居ないだろう。

「この公園、幼稚園からも家からも近いから遊んであげても良いよ」

子どもとは言え、上からの物言いに思い出すと恥ずかしくなるが、確かこの時から、隼斗と俺は毎日の様に遊んでいたと思う。

小学校が違っても遊ぶ場所は公園だから、変わらず遊んでた。

2つ差は大きく、小学校中学年までは俺の方が大きく、力もあったので、お兄さん風吹かせてリーダーの様に中心になって遊んでいたが、高学年になると、隼人の方が背が伸び、体の大きさに比例して力も付き、ドンドン俺は追い抜かされて行った。

俺の影響ではないと思いたいが、隼人は赤が好きで、何かと赤を取り入れており、中3でポツポツピアスを開け、高校に入る時には髪が真っ赤になっていた。

根は真面目だから勉強出来るのに、見た目で損をしている。

一度、なんでそんなに派手なのかと聞いた事あるけど『ゆいちゃんに見つけてもらえるし、俺が目立ってると誰も来ないから』と訳の分からない事を言われた。

昔の事を思い返していたら、委員会もようやく終わった。

一年で一度の活動で良いから楽かなと、体育委員会をしているのだが、体育祭が近くなったので、大分忙しくなっている。

「ゆいちゃん、お疲れ!」

廊下に出ると、隼人が待っていた。

「まだ居たのか!帰れって言ったのに……」

1時間は掛かっていたので、驚いてしまう。

「ふっふっふ!その驚いた顔が見たかった」

おどけた様に言う隼人に呆れる。

「体育祭って学年毎にハチマキの色が違うんだよな?俺、何色だろ?」

「あぁ、1年は赤、2年は青、3年は黄色だな」

これは体育委員でなくても決まっている事なので、誰もが知っている。

「やった赤色!俺、一番取ったら、ゆいちゃんに赤いハチマキあげるね!」

生意気に、俺がやった事を返そうとしてるのか?

「無理無理!リレーは学年毎で競うから1年が3年に勝てる訳ないっつーの!3年は最後だから陸上部で埋めて来るぞ」

張り切ってる隼人には悪いが、現実を教えてやる。

「じゃあさ、それで俺が一番取ったら、奇跡じゃね?」

「まぁ、そうだな。隼人が運動出来ても部活もやってないし、陸上部には敵う訳ないだろ」

これで夢を見るのは諦めろ。

少々気の毒に思っていたが、隼人の目は諦めるどころかやる気に満ちていたのを俺は知らなかった。




後日、見事リレーのアンカーで一位を取った隼人がそのままの勢いで俺の所にやって来て

「俺の一番あげる!これで運命だよ!!一生一緒にいようね!」

と、自分の腕に俺が幼稚園時にあげたハチマキを結び、自分のハチマキを俺の腕に巻き付けてきた。

「太い運命の赤い糸だなぁ!!」

誰かが、俺たちに向かって言ってきた。

「そう!絶対切れない運命の赤い糸だよ」

隼人が嬉しそうに答えてた。

俺は真っ赤になりながらも、真剣に走る隼人の姿が頭から離れず、文句を言えず受け入れていた。

チクショウ、年下のくせに……。

俺の事に真剣になる所、実は好きだったんだよ……。

年下のクセにとあれこれ難癖付けて自分を上に持って行っていたけど、そろそろ自分の気持ちを含め、隼人を認める時が来たのかな……。

俺は赤いハチマキを見つめて思った。


~END~


読んで下さり、ありがとうございました🙇‍♀️

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