なみ

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1/26/2026, 3:34:42 AM

安心と不安

BLです。苦手な人は見ないで下さい。



「蓮人、遅いなぁ……」

スマホの画面を見つめて呟く。

画面に表示される時刻は23時15分。

「日付、変わっちゃうかな……」

今日は飲み会で遅くなるから先に寝とけと言われてる。

こんな風にスマホの時計を睨んでウジウジ考えるより、言いつけ守ってトットと寝てしまうに限るのに、なかなか寝室に行けずリビングで玄関のドアが開く音を聞き漏らさない様、テレビも点けず静かな空間に居る。

……我ながら重いな……。

蓮人とは付き合って1年経った。

恋愛で相思相愛になれるのは男女でも難しいのに、僕らは男同士だ。

好きになっても実らないと見てるだけで良いと思っていたのに、信じられない事に実ってしまった。

とても幸せに満ちている。

満ちているけど、この軌跡と言って良い恋愛は、軌跡な分、脆くて壊れやすそうで……。

叶わないと思っていた人が手に入ったけど、夢の様で、すぐに消えてしまいそうで……。

ただの飲み会。

場所もメンバーも全て安心出来る様に教えてくれてる。

縛りたくない。困らせたくない。友達を大事にして欲しい。

相手を思う気持ちはちゃんとある。

でも、一人にしないで。僕より友達が良いの?なんて嫌な事考えてしまう。



「ガチャガチャ」

静かな空間に、玄関の鍵が回る音が聞こえた。

僕は慌てて立ち上がる。

今更だけど寝室に行こうか、テレビを点けて一人の夜を楽しんでたフリをしようか……。

「まだ起きてたんだ」

結局、慌てただけで、動けず見つかってしまった。

「お、おかえり」

ぎこちない表情なのを自覚しながら声を掛ける。

リビングに入ってきた蓮人がギュッと僕を抱きしめる。

「今日はありがと!飲み会楽しめたよ。遅くなってごめんな!寂しかったよな。寝てていいって言っても眠れないよな」

背中を大きな手がポンポンと優しく慰めてくれる。

「ううん、大丈夫。先に寝ていいって言われてたのに起きててごめん」

「なんで謝るの?」

「……だって、厭味みたいじゃない?帰るまで待ってるみたいで……」

「いや、嬉しいよ」

「嬉しいって?」

「だってさ、飲み会は楽しかったよ!久々に会った奴らばかりだったから。
でもさ、俺が居ない間に伊織が他の奴と連絡取ってたり、俺が居ない方が気楽に過ごせるって思ってたら嫌だなって思ってたからさ、リビングで伊織の寂しそうな後ろ姿を見てちょっと嬉しかった。ごめんな!」

蓮人の言葉を聞いて胸が熱くなる。

蓮人も離れてる間、僕の事を考えてくれてた……?

僕の事、重いって思わない……?

僕もギュゥッ!と蓮人を抱きしめる。

「……ごめん、僕もそれ聞いて嬉しいって思っちゃった。気にせず楽しんでって言ったのにね」

「もうちょっと待っててくれる?アルコールの匂いとって寝たいから」

「分かった。まだお風呂のスイッチ入ってるから冷めてないと思うよ」

「分かった。ササっと洗って来るな」

笑顔で見送ってまた蓮人をソファーで待つ。

あれだけ暗かった気持ちが一気に浮上してた。

不安になってもいつもこうして安心させてくれる。

気持ちを溜めてしまう僕だけど、蓮人には吐き出せる。

これからもずっと不安と安心は繰り返しやって来るんだろうな。

でも不安になった分、その後の安心感は蓮人との絆が強くなったと思える。

自分の重さに嫌になる時もあるけど、こんな不安なら悪くない。

蓮人がその都度、僕に安心をくれるから。

お風呂から上がった蓮人が僕の隣に座って肩を抱く。

僕は首を傾け蓮人からする自分と同じシャンプーの香りを胸一杯に吸い込む。

あぁ……安心する。ずっとこのままで……。

〜END〜

10/5/2025, 7:19:24 AM

※ BLです。苦手な人は見ない事をお勧めします。

「レモン」(pixivのお題より)

思えば、青春時代と呼ばれる俺の小・中学時代はとても痛かった。
今も高校生だからまだ青春と呼べるのだろうが、中学生で止めておきたい位に酷かった。
青い春で青春と呼ぶなら青すぎた。
青すぎて、痛いと言うより酸っぱかった。
口に入れても目に入れても思い切り閉じてしまうレベルに酸っぱかった。

何をやらかしたかと言うと、まぁ一言で言うと己を知らず、怖い物知らずのジャイ○ンだった。
ジャイ○ンは良い。意志が強く、我を通し、相手を屈服させる力がちゃんとある。
俺にはそう言うのが備わってないくせに、リーダーになりたがり、相手を内心で見下していた。
かなりクラスの皆を振り回した事だろう。
思った事は考えずに全部口に出していたし、クラスの皆に謝りたい……。

今は電車で40分掛かる高校に通っている為、同中は少数だ。

俺の中学までが酸っぱい物だと気付かせてくれた出来事は小3から同じクラスになった隼人《ハヤト》の存在で、息が合うから、俺のやる事全部乗っかってくれて、サポートしてくれて、一緒に居るのが楽しくて……。

「俺、隼人の事好きかもしれない。一生一緒に居よ!」

何も考えず、言ってしまったんだよなぁぁぁぁ!!!!!
軽く冗談で流してくれたら良かったのに、隼人は固まって。
俺も今何言った?!って冗談に出来なくてパニックになって……。
2人固まってる時に、授業始まって席に着いて…。
間に授業が入ったから、その後はお互い触れない様にしたから普通には戻れたけど……。

そこから、今までの自分について考えた。
俺がクラスの代表やって良かったのか?
体育祭でデカい横断幕作ってフェンス登ってウェーイの記念撮影やって良かったのか?(先生には怒られていない)
近くも無いのに、休んだヤツの家に宿題やらプリントやらついでに菓子も付けて持って行って驚かしてみたり。
自分だけ楽しんで、ありがた迷惑。うざいって思われてたんじゃないかって思うと、怖くてもう何も出来ない。
酸っぱい、酸っぱい。
レモンの皮を剥くのに親指爪立てて、汁が目に飛んで来た位に自爆し悶えた。

「慶太《ケイタ》、今日大人しいじゃん」
通学で電車に揺られながら過去の自分に悶えていると横から話し掛けられた。
俺より5cm背の高い隼人は少し首を傾げて俺の顔を覗き込み、目が合うと微笑んだ。
近くではなく、偏差値が高い遠くの高校に頑張って行きたいんだと話した時、隼人も一緒に勉強すると言い、今は一緒に電車で通っている。

あの時、何も考えずに言ってしまった言葉。
冗談に出来なかった言葉。
有耶無耶になったけど、消えない言葉。
またいつか言う日が来るだろうか。

中学卒業時は同じ身長だったのが、この数ヶ月で5cmも差が付いている。
通学に時間が掛かるからとお互いクラブに入っていないが、隼人は運動が出来る。
多分これからモテ期が来るだろう。
その内、彼女が出来て俺から離れて行く時が来るのかな。
ズキリと痛む胸を抱えながらも、あの言葉を聞きながらも、こうして変わらず側に居てくれる。
それがほんの僅かな希望になっている。

俺のレモンの様な思い出は、高校で蜂蜜を足され、マイルドで美味しい蜂蜜レモンに変わるといいなと横目で隼人の横顔を盗み見ながら思った。


<補足>
慶太の失態は、本人が思うほど深刻な物ではなく、皆楽しんで付いて行っていた物で、隼人もそんな慶太だからサポートして一緒にいるって関係です。
でも本人からしたら黒歴史なんだな〜笑

5/9/2025, 1:49:45 PM

注)BLです。苦手な人は見ない様にお願い致しますm(_ _)m


「夢を描け」

街の雑踏が眼下に広がるコーヒーショップの2階でボーッと1人アイスコーヒーを飲みながら時間を潰す。

……いろんな人が居るなぁ……
……楽しそうだなぁ……

右に左に忙しなく移動している人たちを眺めていると、無意識に手を繋いで楽しそうなカップルに目が留まる。

……いいなぁ……

見下ろしているので表情は見えないのだが、きっと幸せそうな笑顔で楽しい会話をしている事だろう。

……俺に恋人なんて出来るのかな……

心の呟きがズンと来る。
恋はしている。恋は……。
でも相手がなぁ……。
姉と一緒に男性アイドルに夢中になった時に気が付いた。
俺って、男性が好きなの?
女性アイドルも可愛くて好きだけど、男性アイドルほど夢中になれない。
テレビ越しでも目が合った時の高揚感。
体のラインとか性的な目で見ていた事に気付く。

俺には小3から仲の良い友達が居る。
そいつが困った事に距離感がバグってる。
男性が好きと気付いてから意識して仕方ない。
今までどうやってこの距離感でやって来れたのか不思議で仕方ない。
良い奴だから意識してるのがバレて仲が壊れるのが怖い。

物思いに耽っていると手元に置いていたスマホが震える。
悩みの種の友人、郁弥(フミヤ)からのメッセージだった。
内容を見てギョッとする。

ーー今コーヒーショップの2階の窓側の席に居る?ーー
え、もしかしてこの下の人の中に郁弥が居たりする?!
ジッと探してみたけど分からない。
ーー居るよ。けど、見えないでしょ?今どこから?ーー
ーー今日、この辺行くって言ってたから、コーヒー好きだし、居るかなってコーヒーショップ覗いてたんだ。今から合流しに行くーー

え、こっち来るの?!
合流ってこれから一緒に遊べるって事?!
それって……デ、デート?!?!
いや、早まるな、俺!違うから!!

それにしても、この辺遊びに行くって言ったけど、コーヒーショップに居るのを見当付けて探すだなんて……これって、期待しても良い?!?!

都合が良い解釈をしそうになる自分を宥めながらも、自分には叶わないと思っていた夢を描いてしまう。
いいよね、夢見る位は……。

「よっ!隣良い?」
休日のコーヒーショップは混んでいて、人を見つけるのは大変と思うのに、郁弥は難なく俺を見つけて隣の席を確保する。
「この人混みでよく見つけたなぁ。この下に居たんだよな?俺、ずっと下見てたのに全く気づかなかった」
「センサーが違うんだよ」
「何だよ、それ。俺がどこにいるか反応するのか?」
「そうだよ。お前専用のセンサーが俺にはあるんだ」
ドキッとする。
冗談だろうに、俺が郁弥の特別みたいな言い方…。
だから、ダメだって!そう言いながらも先ほど描いた夢に更に2人で幸せそうに笑う姿が追加された。

この夢がどんどん大きくなってキャンパス一杯になったら、抱えきれず告白してしまうかもしれない。

こちらの悩みに気付かない郁弥は手を伸ばし、俺の頭を撫でながら
「寝癖!可愛いなぁ」
と、無邪気に笑った。
俺の夢がキャンパスにいっぱいに描かれるまで、そう時間は掛からないかもしれない……。

              ーENDー


7/11/2024, 1:18:36 PM

『目が覚めると」

※一つ前のお題です。間に合いませんでした💦
※BLです。苦手な人は読まない様にお願いします🙇


カーテンの間から眩しい光が差し込み、窓の外の鳥の声が聞こえて来る。

目覚ましより先に目が覚めるのは珍しいなと思いながら、目を開けると

「おはよう」

「……?!?!」

「驚かせちゃった?ごめんね、起こして来いって言われたからさ」

朝の準備がバッチリ整っている感じの聖哉《セイヤ》さんがニコニコ顔で言う。

「えっと……。ちょっと待って下さい。今何時ですか?」

寝起きで頭が回らない。

「6時30分だね」

「6時30分……。え、アラーム6時にセットしてるのに鳴らなかった?!」

慌てて、ベッドのサイドテーブルに置いているスマホを取ろうとする。

すると、伸ばした手をソッと握られる。

「アラームはね、一瞬鳴ったんだけど止めちゃった」

テヘッといたずらっ子の様に笑う。

あぁ、こんな天使の様な顔で暴露されたら怒るに怒れない……!

「母さんが蒼汰《ソウタ》を起こして来いって言うから。一応ノックはしたよ。で、起こそうと思ったんだけど、幸せそうな寝顔を見たら起こせなくて……」

「そ、そうですか。いいですよ。6時のアラームでも起きるのは大体6時30分ですし。起こしてくれてありがとうございます!」

「許してくれる?ありがとう。これからは蒼汰くんを起こすのは俺の仕事にするね」

「え、大丈夫、大丈夫です!俺、寝起き悪いし、アラームでいつもちゃんと起きれてるし、放っておいてくれて大丈夫です!」

この整った顔を毎日朝一に見るなんて、そんな心臓に悪い事出来ない!!

両手を振って拒否すると、聖哉さんは目に見えてシュンと項垂れた。

うぅっ!罪悪感……。

「ダメかなぁ?今日は誘惑に負けたけど、明日はちゃんと6時に起こすから」

上目遣いにお願いされる。

あれ、朝起こしてもらうのってこんなに大事な事だっけ?

そう思いながら

「分かりました。じゃあ、明日も宜しくお願いします!」

撤回しないと、一日ずっとシュンとしてそうで、慌てて、訂正する。

はぁ、朝起きたら、聖哉さんが俺の部屋に居るの?

こうして、覗き込まれておはようって言われるの?想像しただけで無理だ……。

まず、俺の寝顔が……。幸せそうって言ってたけど、ただのアホ面でしょ。

明日からは6時よりも前に起きよう。

アラームより遅く起きる事はあってもアラームより先に起きる事はほとんどない俺が誓った。

1階に降りるとパンが焼ける香ばしい香りとコーヒーの良い香りがしていた。

「蒼汰くん、おはよう。昨日は引越しの片付けしたりで、まだ疲れが残ってるんじゃない?朝食はトーストとサラダとコーヒーでいいかしら?和食が良かったら明日から和食にするわよ」

ふんわりとした髪を揺らしながら、ニッコリ微笑む美人は、この度、俺の父親と再婚した新しいお母さん。

聖哉さんは、この美人のお母さんの息子さんだ。納得。

「俺、今まで朝ご飯は食べてなかったので、朝からこんなにしっかりした朝ご飯食べれるの嬉しいです!!ありがとうございます」

「あら、そうなの。育ち盛りだから朝ご飯はしっかり食べてね」

はぁぁ〜、こんな美人の手料理にこんな優しい言葉……父親に大感謝だ!!

席に着いて、トーストを頬張る。

隣からスッと手が伸びて、俺の頬に付いたジャムを長く綺麗な指で掬い取り、

「付いてた」

と、いつの間にか隣に聖哉さんが座っていた。

「唇の端にも付いてる。舐めたいけど我慢」

クスッと笑って俺を見る。

顔に熱が上がるのを自覚しながら、慌ててティッシュを取ってゴシゴシ口を拭く。

「そんなに乱暴に吹くと赤くなるよ」

聖哉さんは、最初見た時は、優雅で聖哉さんの周りだけ時間の軸がゆっくり動いてるのかなって言う程、纏ってる空気が違っていて、長めのサラサラの髪を耳に掛ける姿とか、男女問わず人を魅了して仕方がない存在だ。

そんな聖哉さんは、義弟が嬉しいらしく、顔合わせの時から、ずっと俺にベッタリなのだ。

ふふっと笑った顔も魅惑的で、ドキッとする。

ジャムを付けない様に気をつけても、たっぷり塗ってあるので難しい。

見ると、聖哉さんはサラダとコーヒーだけの様だった。

お母さん、俺が甘い物好きなの知って、ジャムたっぷりで準備してくれたんだ。

胸がジンと暖かくなった。

「通学は電車だっけ?」

「はい、そうです」

「じゃ、駅まで送るよ」

聖哉さんが長い指に絡めた車のキーを見せる。

くぅっ!何をやってもサマになる!

聖哉さんは、社会人で高校3年の俺とは5つ違う。

聖哉さんの運転する姿は見たいが、2人きりは緊張しそう……。

でもここまで言ってもらって断れないし……と、車に乗せてもらう。

車の免許無いし、そんなに興味も無かったから、車種とか分からないけど、何だこのフッカフカのシート!!

良い香りするし、広い!!

快適だ〜と思ってたら、まだ引越しの準備の疲れが残っていたのか、俺はウトウトと眠ってしまった。

駅までの話が、どうも聖哉さんは最初から学校まで送るつもりだったらしく、駅までなら起きてたはずなのに、学校までは4駅もあるので、快適車だと眠ってしまったのだと言い訳しておこう。

「蒼汰くん、蒼汰くん。起きないならイタズラしちゃおうかな」

頬ににサラサラとした毛の様な物が当たる。

柔らかくて気持ちいいな……。

まだ微睡んでいたいけど、ゆっくりと目を開ける。

目が覚めると……。

「うわっっ!!!!せ、聖哉さん?!?!」

あまりにも間近に整った顔があったので驚いた。

「ははっ、あと少しだったのに」

「あと少しって何ですか!!」

「ふふっ、また次の楽しみにしておくね。だって俺は、蒼汰くんを起こすのが仕事だから」

え、これ起こされる度、ドッキリさせられるの?!

きっと、帰ったら、聖哉さんに構われて、疲れてぐっすり眠り、そしてまた明日目が覚めると……。


〜END〜

お読み頂き、ありがとうございました。

7/4/2024, 1:12:11 AM

「この道の先に」


道は一つじゃない事は知っている。

でも知らない道を進むのは迷いそうで怖い。

慣れた道が一番良い。安心安全が一番だ。



「あ、工事今日からだったのか」

いつもの決まった通学路を歩いていたが、通行止めの看板に行き当たった。

学校から迂回路の知らせが来ていたが、あまりよく見ていない。

時間に余裕はあるのだが、迂回するとどれ位の時間を取られるか分からない。

ここから迂回しても最短で行ける道は……。

頭の中で地図を広げる。

「あ、通行止め今日からか!」

大きな声に驚いて振り向くと、地毛と言うが俺は信じていない明るい茶色の髪に同じ色の愛嬌のある瞳、やや太めのキリッと釣り上がった眉に通った鼻筋、身長も178cmと長身で妬ましくなる容姿を持つ男が立っていた。

ゲッ!あまり関わりたくないクラスメイトと一緒になってしまった。

俺に気付かず行ってくれと心の中で祈るほどだった。

「中西じゃん!中西も俺と仲間か!ラッキー!一緒に行こうぜ!」

この軽いノリが嫌なんだ。

見た目も……。

「ネクタイちゃんとしろ。靴の後ろを踏むな」

「わー、朝から色々見てくれてる。やったぜ」

「いや、見てない。目に付くだけだ。直せ」

これが俺と大石の毎朝のやり取りだ。

ネクタイは持っていて、いつもポケットに入れているのを知っている。

「はい、どーぞ」

ニコニコしながらネクタイを渡してくる。

「昨日が最後って言ったぞ、自分でやれ」

「ネクタイのやり方忘れたんだよな〜。やってくれないならいいや。遅刻するから行こうぜ」

靴だけ履き直して歩いて行こうとする。

俺はため息をついて靴は直したからヨシにするかと

「貸せ。今月中にネクタイ覚えろよ。来月からはやらないからな!!」

とネクタイを奪い結んでやる。

「よし、で、迂回路はどの道だ?」

「あの道行こうぜ」

「あんな細い道を迂回路にはしないだろ?」

「でもあの道が絶対最短だ」

何を根拠に最短と言うのか分からないが、大石は細い道に行ってしまう。

学校指定の通学路以外で事故でも遭ったらどうするんだと思いながらも、1人放っておくわけには行かず付いて行く。

細い道は小さな川に沿っていて、2人並んで歩ける道幅で、車は通れず、なかなか良い散歩道になっていた。

「この道良いな」

嬉しそうに大石が言う。

「そうだな。初めて通るがなかなか良いな」

川の水は澄んでいて、小さな魚の影も見えた。

「あ、猫だ」

川の反対は、人が居るのか居ないのか築年数の多そうな家が数軒あり、塀の上に丸くなった猫が俺たちを見下ろしていた。

「逃げるかな」

そう言いながら、そうっと大石が手を差し出すと猫はスリッと顔を擦り付けてきた。

「お、可愛い!人馴れしてる。中西も触ってみ」

実は猫好きなんだ。触りたい!!

言われて、そっと手を差し出してみると、ザリっとした舌で舐められた。

「朝ごはんの匂いが付いてたかな?」

大石が揶揄う。

「この辺、猫多そうだな。あそこ子猫が居るわ」

大石に言われ、見てみると2匹子猫が並んで座りこちらの様子を見ていた。

ここは天国かな。

妹が猫アレルギーで猫が飼えないのを残念に思っていたが、こんな良い散歩コースを発見するなんて……!

「この道通って良かっただろ!明日はまた違う道行ってみようぜ」

大石が胸を張って言う。

俺だけだったらこの道は通らなかっただろう。

無難な安全な大きな道を通り、ただ足を動かして学校に着いていた事だろう。

今日がたまたま良い道だったのだと思うが、明日違う道を行くと聞いてワクワクしてしまった。

この道も俺1人だと猫に気が付かなかったかもしれない。

大石が居たからこの道が好きになったのだと思った。

「よし、ここ入ってみよう」

「おい、遅刻するだろ。そこに行きたいなら早い時間に家を出ろ」

すぐ横道に逸れようとする大石を止める役割も必要だ。

うんうん、と俺は自分の必要性を見出した。

「チェッ!今ならどこでも付いて来ると思ったのにな!じゃあ、明日は少し早めに家を出るか。時間決めようぜ!」

工事の間だけだとは思うが、俺は大石と一緒に学校に行く事にした。

明日はどの道を行こうか……。

いつも1人だった道。

これからは変わる。

この道の先に



〜END〜


読んで頂き、ありがとうございました😊

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