「窓越しに見えるのは」
教室の後ろから3番目の窓際の席。
今日も幸せそうに窓の外を見ている。
窓越しに見えている物は、普段は立ち入り禁止で、大掃除の窓拭き位しか使われていないベランダと中庭が気持ち見える位だ。
ベランダが無ければ中庭の全体が見えて良い景色だっただろう。
そんな残念な景色をこうしてたまに幸せそうに見ているのだから不思議だ。
ボーッと見ている時と、こうして何かに気づいて幸せそうな顔をする時があるので、鳥でも来てるのかなと思っている。
水名瀬君は動物が好きだからな。
窓の外を見てくれてたら、少し離れた俺の席から水名瀬君の横顔が見れるから、何だって良い。
退屈な国語の授業を終え、昼休憩だ。
「水名瀬ー!昼どこで食う?」
水名瀬君の席はアッと言う間に人で囲まれる。
俺はそれを見ながら自分のカバンを持ってソッと教室を出る。
水名瀬君を中心にいつも人が集まっている。
対する俺は未だにクラスに馴染めず1人が多い。
入学式の時は水名瀬君、代表で挨拶してカッコ良かったなぁ……。
移動教室で迷ってしまった時も、俺を見つけて案内してくれたし……。
俺の事ちゃんとクラスメイトとして認識してくれてた事にビックリだったけど、さすがだよなぁ。
ほんのちょっとした出来事しか無いのだけど、そのちょっとした事が俺にとっては大事件で、ずっと大事に心の中に抱えてる。
来年は違うクラスかもしれないんだから、せめて挨拶する関係にはなりたいと思っているのだが、そのハードルが高い。
ため息を吐きながら中庭でお弁当を食べていると、スリッと俺の腕に頭を擦り付けてくる。
「あ、お前いつもどこに居るんだよ。待ってろよ、今日はちゃんとお前用の猫缶持って来たんだぞ」
中庭に居ると、どこからともなくやって来るハチワレ猫。
あちこちで良い物もらってそうな恰幅の良い姿だが、可愛くてついつい何か与えてしまう。
「明日はちゅ〜るにしようかな」
ガツガツ食べている猫を見ながら嬉しくて明日の事も考える。
毎日この猫が来てくれるから、俺のお昼は寂しくない。
「ちゃんと噛んで食べろよ〜」
豪快に食べる猫に声を掛けながら自分もまたお弁当を食べ始める。
「あ、またあの猫と居る」
「何?」
「いや、何でもない」
何で俺の周りはこんなに人が集まるんだか……。
俺だけだったらあそこに座って一緒に猫と戯れてるのに……。
あの笑顔良いなぁ。
声を掛けても大体俯いてしまって顔もまともに見れた事ない。
「水名瀬、もう教室行く?」
「あぁ、そうだな。もう行っとくか」
もう少しコッソリ見たかったけど、他の奴らに見つけられるのも嫌だし、中庭から離れる事にした。
午後の睡魔との戦いの授業が始まる。
この席になってから、つい窓の外を見る癖が付いてしまった。
中庭が見えたら良いのに、半分はベランダで消されている。
と、ヒョイッとハチワレ猫がやって来て、だら〜んと伸びて横になる。
この猫、緊張感無いよな。
この媚びないマイペースな所が、自然と受け入れられたのかな……。
今日も猫と戯れる姿良かったなぁ……。
あ、また鳥でも来たのかな?
水名瀬君が幸せそうな顔をしてる。
いいなぁ、俺もあんな風に見つめられたい……なんてね。
窓際に見えるのは……
2人の思いなんて知ったっこっちゃない、毛繕いに必死なハチワレ猫様でした。
〜END〜
読んで頂き、ありがとうございました😊
「赤い糸」
「ゆいちゃん、今日委員会何時まで?」
「ゆいちゃんじゃねぇ!俺の名前は悠一だ!勝手に短くするな!!」
「違うと言ってもちゃんと返事してくれるの好き!小さい時は『ゆういち』が言えなくて『ゆいち』になってて、ゆいちゃんが『ゆいで良いよ』って言ってくれたじゃん。優しかったな〜!今も優しいけど。大好き!!」
「あーー!!うるさい!うるさい!!男に好きって言われても全く嬉しくない!!隼斗はもう終わりだろ?サッサと帰れよ!じゃあな!!」
俺の方が2学年も上で、階が違うと雰囲気も違うので、なかなか他学年が来る事は無いのに、隼斗は動じることなく、事ある毎に3年の階にやって来る。
どちらかと言うと、隼斗が来ると、3年生の方が隼斗を敬遠している。
隼斗は見た目が派手なので、黙っているとそのキツイ雰囲気に圧倒される。
180cmを超える長身に、真っ赤な髪、ピアスを右に4つ、左に3つ開けている。
目は大きく可愛らしいが、唇は薄く、睨みを効かせれば目が大きい分、眼力が凄い。
幼い隼斗を知らなければ、俺だって隼斗を敬遠して口をきくことは無かっただろう。
どこだ……どこで、俺は道を間違えたんだ!
思えば隼斗とは幼稚園も小学校も違う。
なのに、どうしてこんなにも絡まれるんだ……!!
もう10年以上前になるので、記憶も朧げだが、思い当たるのは、幼稚園の運動会の帰り……。
年長の幼稚園最後の運動会は、かけっこで一番になり、とても気分が良かった。
嬉しくて、かけっこで使った赤いハチマキをしたまま、父と母と手を繋いで歩いて帰っていた。
俺の通っていた幼稚園の近くに保育園があり、その近くの公園で泣いている男の子が居るのに気がついた。
すぐ側でその子のお母さんがしゃがんで何か言っていたが、男の子の泣き声が大きくて届いていない様だった。
どうもこけたみたいで、膝から血が出ているのを目にした。
運動会の興奮が抜けなかったのか、俺は何故か衝動的にその子の所まで走って行き
「僕の一番あげる!!」
そう言って、赤いハチマキを外してその子の手に渡してあげたんだ。
その子は驚きの方が大きかったみたいで、涙が止まってた。
「かけっこで一番になれたんだ!赤いハチマキカッコいいだろ?あげる!」
俺は胸を張って言っていた。……今思うと、とても小っ恥ずかしい……。
「かけっこで一番……。赤いハチマキ……」
その子は俺の言葉を繰り返し言うと、ハチマキをジッと見つめ、そして俺の方を向き直って
「一番、カッコイイ!赤、カッコイイ!!僕、お兄ちゃんみたいになりたい!!」
キラキラした瞳でそう言われたら気分が良くならない人は居ないだろう。
「この公園、幼稚園からも家からも近いから遊んであげても良いよ」
子どもとは言え、上からの物言いに思い出すと恥ずかしくなるが、確かこの時から、隼斗と俺は毎日の様に遊んでいたと思う。
小学校が違っても遊ぶ場所は公園だから、変わらず遊んでた。
2つ差は大きく、小学校中学年までは俺の方が大きく、力もあったので、お兄さん風吹かせてリーダーの様に中心になって遊んでいたが、高学年になると、隼人の方が背が伸び、体の大きさに比例して力も付き、ドンドン俺は追い抜かされて行った。
俺の影響ではないと思いたいが、隼人は赤が好きで、何かと赤を取り入れており、中3でポツポツピアスを開け、高校に入る時には髪が真っ赤になっていた。
根は真面目だから勉強出来るのに、見た目で損をしている。
一度、なんでそんなに派手なのかと聞いた事あるけど『ゆいちゃんに見つけてもらえるし、俺が目立ってると誰も来ないから』と訳の分からない事を言われた。
昔の事を思い返していたら、委員会もようやく終わった。
一年で一度の活動で良いから楽かなと、体育委員会をしているのだが、体育祭が近くなったので、大分忙しくなっている。
「ゆいちゃん、お疲れ!」
廊下に出ると、隼人が待っていた。
「まだ居たのか!帰れって言ったのに……」
1時間は掛かっていたので、驚いてしまう。
「ふっふっふ!その驚いた顔が見たかった」
おどけた様に言う隼人に呆れる。
「体育祭って学年毎にハチマキの色が違うんだよな?俺、何色だろ?」
「あぁ、1年は赤、2年は青、3年は黄色だな」
これは体育委員でなくても決まっている事なので、誰もが知っている。
「やった赤色!俺、一番取ったら、ゆいちゃんに赤いハチマキあげるね!」
生意気に、俺がやった事を返そうとしてるのか?
「無理無理!リレーは学年毎で競うから1年が3年に勝てる訳ないっつーの!3年は最後だから陸上部で埋めて来るぞ」
張り切ってる隼人には悪いが、現実を教えてやる。
「じゃあさ、それで俺が一番取ったら、奇跡じゃね?」
「まぁ、そうだな。隼人が運動出来ても部活もやってないし、陸上部には敵う訳ないだろ」
これで夢を見るのは諦めろ。
少々気の毒に思っていたが、隼人の目は諦めるどころかやる気に満ちていたのを俺は知らなかった。
後日、見事リレーのアンカーで一位を取った隼人がそのままの勢いで俺の所にやって来て
「俺の一番あげる!これで運命だよ!!一生一緒にいようね!」
と、自分の腕に俺が幼稚園時にあげたハチマキを結び、自分のハチマキを俺の腕に巻き付けてきた。
「太い運命の赤い糸だなぁ!!」
誰かが、俺たちに向かって言ってきた。
「そう!絶対切れない運命の赤い糸だよ」
隼人が嬉しそうに答えてた。
俺は真っ赤になりながらも、真剣に走る隼人の姿が頭から離れず、文句を言えず受け入れていた。
チクショウ、年下のくせに……。
俺の事に真剣になる所、実は好きだったんだよ……。
年下のクセにとあれこれ難癖付けて自分を上に持って行っていたけど、そろそろ自分の気持ちを含め、隼人を認める時が来たのかな……。
俺は赤いハチマキを見つめて思った。
~END~
読んで下さり、ありがとうございました🙇♀️
「入道雲」
青く澄み渡った空に遠く入道雲が発生している。
あぁ、本格的な夏が始まったんだなと感じる。
自転車のスピードを上げれば涼しかった風も熱を含み、涼しさを全く感じない。
ただただ、暑いだけだ。
今日で高校も修了式を迎え明日からは夏休みが始まる。
ーー明日から会えなくなるんだなぁーー
高校2年生の夏休みは貴重だ。
来年の今頃は自分が決めた進路の事だけ考え、勉強に集中しなければならない。
遠くに見える入道雲に目をやる。
こうして見ると、夏らしく白い雲が連なった大きな雲は綺麗でとても見応えがあるが、あの雲の下の地域や、雲の中はいつか見た天空の城に行くために突入したアニメの様に、あちこちで雷が発生し、前も見えず大荒れでとても今感じている気持ちとはかけ離れた物だろうと思う。
入道雲=受験と重ねてしまいそうだ。
「おはよ!どうした?」
学校近くになったから、自転車を止めてボーッと遠くの入道雲を見ていたら、僕の肩をポンと軽く叩いて挨拶された。
「おはよ!あれ、笹本、自転車は?」
笹本は中学から一緒だが、同じクラスになったのはこの2年生からだ。
中学の時も住んでる所が反対方向で通学路被らないし、そんなに接点無いから、あまり話さないと思っていたら、同じ自転車通学と言う事で自転車置き場で毎日顔を合わす様になり、お互いの教室まで一緒に行くのが日課になっていた。
今は同じクラスだから、教室まで一緒に行くし、同じ委員になった事もあるので、かなり仲良くなっていると思う。
……そう思ってるのは僕だけかもだけど……。
小学校からサッカーをしているらしく、中学でも高校でも主将となり、在校生だけでなく、外部からも注目を浴びている。
白いシャツの袖から伸びている腕は筋肉質でシャツが眩しく見える程、日焼けしている。
こんなに日焼けしていても、笑顔は爽やかで、コシはあるけど、触り心地の良さそうなサラサラの色素の抜けない黒い髪に同じ色の瞳が細められ、僕が女の子だったらときめいた事だろう。
……いや、女の子じゃなくても、僕は密かに毎度ときめいていた。
カッコいいんだよぉぉぉぉ!!!!
心臓に悪いから、あまり笑顔を振りまかないでくれ!!
笑顔を向けられる度に僕はそう思ってしまう。
今は性について、かなり寛容になりつつあるけど、この気持ちはまだまだ世間的には認められる物ではないとしっかり胸に刻んでいるので、距離感を間違えない様に過ごしている。
「もうすぐ予鈴鳴るのに、自転車無いからちょっと散歩がてら迎えに行こうと思ったら、見つけた」
え、わざわざ僕を迎えに来てくれたの?
僕目線だからか、少し照れくさそうに見えるんだけど……ダメダメ、僕はたまに恋愛脳になるんだから、期待したらダメなんだ。
バレたら気持ち悪がられるし、今の関係が無くなってしまう。
「そうなんだ。僕の存在感があって良かったよ」
期待する気持ちを抑えつけながら、いつもの口調で話す。
「泉の存在感半端ないよ、俺、泉が休みの日寂しいもん」
またァァァ!!また、そんな期待値上げる事を言う!!
あなたは友達多いでしょ?!笹本が休んでボッチになるのは僕の方です!!
心の中で顔真っ赤にして叫ぶ僕。
笹本 楓と鳴川 泉……笹本と僕の名前だ。
僕は笹本の事を上の名前で呼ぶが、笹本は僕の名前を下の名前で呼ぶ。
下の名前を呼ぶのは親しい人の証らしい。
そして、今の所、下の名前で呼ばれてる人は僕以外に居ない。
鳴川よりも泉の方が短いし、呼びやすいからかもしれないし、だからどうしたって話だけど、僕は自分の名前を呼ばれる度に舞い上がる気持ちを抑えなければならない。
「で、どうした?ボーッとしてたけど」
僕より頭一つ分大きい笹本が覗き込む様に、間近で僕を見つめる。
ち、近い!近い!!心臓に悪いからァァァ!!
「あ、空が綺麗だなって……夏だなぁって……」
焦りながらも質問に答える。
「本当だな、入道雲が出来てる。明日から夏休みだもんな〜。海行きて〜!!」
まだ日に焼けるつもりかと突っ込みたくなるけど、本心から出た言葉に聞こえて思わず笑ってしまう。
「なぁ、夏休みの予定は?」
突然、聞かれ驚くが
「んー、特に無いなぁ。お盆にお墓参りと親戚の集まりがある位?」
毎年の夏休みを思い浮かべながら答える。
「俺、午前中は部活あるけど、午後からはフリーだから遊ぼうぜ!遊べるのって今年だけだよな、去年誘うつもりだったのに、言えなくて……。
課題とか一緒にやるのも良くない?俺の家でも良いし、図書館でも良いし……」
ま、マジか……。これは夢かな。
「いいね!僕の家も親は仕事で居ないから空いてるよ!」
動揺を隠しながら、友達の自然のノリで話に乗る。
「お、泉の部屋見てみたい!最初は泉の家でいい?」
軽く乗っただけだったのに、僕の家決定か……部屋片付けないと……
「いいよ!笹本、運動だけじゃなく、勉強も出来るから一緒に出来るのありがたいよ!僕の部屋をジャンジャン使ってくれ!」
「じゃあ、クラスのグループメッセージから個人に行っていい?また後で連絡しとくな!」
「うん、いいよ!僕も後でメッセージ送っとくね!」
もう長い付き合いになるのに、学校でしか話してないから、クラスや委員会のグループメッセージだけで事足りていた為、個人間でのやり取りは一切していなかった。
あ、あれ、夏休みに遊ぶってだけで、こんなに繋がれるもんなんだな……。
トントン拍子に夏休みの話から、ここまで一気に距離が近くなった事に呆然としながら、嬉しそうな笹本の顔を見る。
「やばい!もう予鈴鳴る!行こうぜ!!」
「わ!本当だ!急ごう!!」
時計を見た笹本が教えてくれ、僕も時計を見て慌てる。
僕は自転車には乗らず、笹本と走って学校へ入る。
自転車を置きながら、青い空を見上げる。
大きく連なる入道雲。
見ている分には良いんだ。青い空に白い大きな雲。
近づき過ぎると危険な夏の雲。
この景色が僕の夏休みを特別な物に変えてくれた。
笹本と過ごす奇跡の夏休みもこれが最初で最後と思う。
僕はあの雲を見ているだけで良いのだろうか……。
それとも、この夏休み、冒険する勇気を持つのだろうか……。
〜END〜
読んで下さり、ありがとうございました😊