summer

Open App
4/3/2023, 1:09:16 PM

/1つだけ



小さなぼくの
おやつの皿にひとつだけ
綺麗な銀紙でくるんだお菓子
赤とクリーム色
葉薊(アカンサス)模様にくるまれて

母さんは秘密めかして取り出す
冷蔵庫から銀紙のお菓子
おいしいけれど
とても油っこいからね

栄養がありすぎるの、と母さんは言う
ちっちゃい子は二つも食べたら
鼻血を出してしまうわ
だから今日ひとつ
明日ひとつ
あさってひとつ、ね

ぼくはミルクを
母さんはコーヒーを飲みながら
大事にかじった
だからね、今も
バターサンドは特別のおやつ
たくさん貰っても
一日ひとつ
明日にひとつ
あさってひとつのお楽しみ…

4/2/2023, 10:37:49 AM

/大切なもの


捨ててきたよぜんぶ
ひと晩寝て考えたらさ
要るものなんかなかったよ

みんなからもらったものは
頭(ここ)にはいってる
小さな頃の宝物は胸(ここ)に
だからね
要るものはもうなかったよ

リュックを見るかい
食べものとナイフとペン
毛布と下着
メモ帳がわりの本
大して好きじゃない本だ
これまで読んだすばらしい本たち
いちばん好きだった本を思い出すためにね
それか これからの長い旅で
好きになるかもしれないね
だったら素敵だ

さあ行こうか
随分きみを待たせてしまった
ぼくの支度がととのうまで
ずっと待ってくれてありがとう
さあ行こう
夜と岩山と砂漠のむこう
きみの伝え聞いた
「大切なものたちの都」があるという……

4/1/2023, 1:25:45 PM

/エイプリルフール



「その飴ちょうだい」
「何でも言うこときくならね」

ためらったけど
結局もらうし
きみの顔色みたら
悪いことにはならなさそうだし
今日は四月の一日だし

もしかして、……なのか
結局おふざけ、か

飴は甘い
それは真実
なのに全部はそうじゃない
仲良くたって
甘いものくれたって
甘くなれるとは限らない

飴は甘くていちご味
風が前髪を吹きちらして
(つきあってよ。)
と声がした気がするけれど

もう友だちじゃなくなる用意と
がっかりしない用意するのに忙しくて
まだ
まだ
まだきみを見られずに
白い風の中。

3/29/2023, 1:07:26 PM

/ハッピーエンド



大切に思い
思ってくれる人とは
幸せになれると思っていた
そうじゃなくて

幸せな時間が終わりになること
幸せじゃない終わりがあること

がんばって終えた舞台のあとに
きれいじゃない生活があること
知っていて
わかっていなかったなんて

私は過去をふり返り
ノートに書きつける
それでも幸せへと、
這ってでもゆきつけるだけの強い夢を
砂糖菓子のようにもろかった
ハッピーエンドの続きに

3/28/2023, 12:09:49 PM

/見つめられると


眼のおもてが
ぐっと押されるようなの
静かなのに強い風を
    あてられているみたいに

まぶたが降りる
ぬれてあたたかい眼をつつむ
カーテンのようなそこも
まだ風を感じていて

視線は目にしみる
肌にしみる
少し居心地の悪いほど
    わたしを閉じこもらせて
予測のつかない風の手が
わたしの頭を撫でている……

Next