/1つだけ
小さなぼくの
おやつの皿にひとつだけ
綺麗な銀紙でくるんだお菓子
赤とクリーム色
葉薊(アカンサス)模様にくるまれて
母さんは秘密めかして取り出す
冷蔵庫から銀紙のお菓子
おいしいけれど
とても油っこいからね
栄養がありすぎるの、と母さんは言う
ちっちゃい子は二つも食べたら
鼻血を出してしまうわ
だから今日ひとつ
明日ひとつ
あさってひとつ、ね
ぼくはミルクを
母さんはコーヒーを飲みながら
大事にかじった
だからね、今も
バターサンドは特別のおやつ
たくさん貰っても
一日ひとつ
明日にひとつ
あさってひとつのお楽しみ…
/大切なもの
捨ててきたよぜんぶ
ひと晩寝て考えたらさ
要るものなんかなかったよ
みんなからもらったものは
頭(ここ)にはいってる
小さな頃の宝物は胸(ここ)に
だからね
要るものはもうなかったよ
リュックを見るかい
食べものとナイフとペン
毛布と下着
メモ帳がわりの本
大して好きじゃない本だ
これまで読んだすばらしい本たち
いちばん好きだった本を思い出すためにね
それか これからの長い旅で
好きになるかもしれないね
だったら素敵だ
さあ行こうか
随分きみを待たせてしまった
ぼくの支度がととのうまで
ずっと待ってくれてありがとう
さあ行こう
夜と岩山と砂漠のむこう
きみの伝え聞いた
「大切なものたちの都」があるという……
/エイプリルフール
「その飴ちょうだい」
「何でも言うこときくならね」
ためらったけど
結局もらうし
きみの顔色みたら
悪いことにはならなさそうだし
今日は四月の一日だし
もしかして、……なのか
結局おふざけ、か
飴は甘い
それは真実
なのに全部はそうじゃない
仲良くたって
甘いものくれたって
甘くなれるとは限らない
飴は甘くていちご味
風が前髪を吹きちらして
(つきあってよ。)
と声がした気がするけれど
もう友だちじゃなくなる用意と
がっかりしない用意するのに忙しくて
まだ
まだ
まだきみを見られずに
白い風の中。
/ハッピーエンド
大切に思い
思ってくれる人とは
幸せになれると思っていた
そうじゃなくて
幸せな時間が終わりになること
幸せじゃない終わりがあること
がんばって終えた舞台のあとに
きれいじゃない生活があること
知っていて
わかっていなかったなんて
私は過去をふり返り
ノートに書きつける
それでも幸せへと、
這ってでもゆきつけるだけの強い夢を
砂糖菓子のようにもろかった
ハッピーエンドの続きに
/見つめられると
眼のおもてが
ぐっと押されるようなの
静かなのに強い風を
あてられているみたいに
まぶたが降りる
ぬれてあたたかい眼をつつむ
カーテンのようなそこも
まだ風を感じていて
視線は目にしみる
肌にしみる
少し居心地の悪いほど
わたしを閉じこもらせて
予測のつかない風の手が
わたしの頭を撫でている……