Nanase

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12/9/2022, 12:52:12 PM

「結婚式がしたい」

ままならない現実に拗ねた彼女がむくれっ面でそう言うものだから、自分としてはもう如何にかするしかない。そんな使命感とも慈愛ともとれる感情のままに彼女の手を引いた。

「こんな冬に海?」
「雰囲気良いでしょ」
「もう、冗談だったのに」

寄せては返す波を見つめながら、手を繋いで砂浜を歩く。彼女の手はいっそ不健康な程に白くて細い。
不意に、不安になった。彼女が自分を置いて遠くに行ってしまう確信が胸の奥で騒めく。夕陽を背に受け影が出来た彼女の顔は不満そうな声を出しつつも、実に満足そうだったから余計にこの人を離したくないと思った。握る手に力を込める。波にさらわれて何処かに行かないように。これは彼女の為などではなく、焦燥に駆られた醜い自己満足。
それでも彼女は笑うのだ。目元に皺をつくって、出会った時から下手くそな笑顔で。堪らなく愛おしく、憎たらしいったらありゃしない。
一生夢が叶わない事を突き付けられているなんて理解していないように、精一杯幸福を表情で表す彼女に惚れた自分が一番馬鹿らしい。溜息を吐きたくなった時、彼女が突然しゃがみ込んで硝子の破片のような物を拾った。「シーグラスだ」彼女が呟く。

「ねぇ、綺麗じゃない?」

君が一番綺麗だよ、なんてキザな言葉を言う事も出来ず、ただひたすらにそんな自分を恥じた。適当な相槌を打つ。彼女の笑い声が転がる。鈴の音が鳴る。

あぁ、貴方が私の手を離さないでくれるのなら、私はもう死んだって良いのに。

#手を繋いで

12/8/2022, 12:35:05 PM

好きな人に告白しました。初恋でした。
上手くいくなんて思っていなかったのに、どだい実現しそうもない未来を期待していた自分がいました。

放課後、素直に伝えたら、あの子は笑いました。
悲しそうだったけど嬉しそうでもあって、私の方がなんだか泣きたくなりました。

ごめんね、好きになってくれてありがとう。

その言葉があの日以来ずっと頭から離れない。優しすぎたあの子は傲慢な私にありがとうと言いました。
そういうところが愛おしかった。

好きだ、好きです、好きでした。
あの子はきっと、何かが零れ落ちそうな顔をして笑うけれど。

#ありがとう、ごめんね

12/5/2022, 1:15:22 PM

明日、12時、駅前集合。三つの単語の間を視界が行き来し、それだけで口角が上がってしまう。布団の中で足がばたつく。興奮が抑えられない。

初めて出来た彼氏、初めてのデート、二人きりで!

楽しめない未来が見えない。トーク画面を閉じれない程に、無邪気に楽しみにしている自分がいる。小学校の遠足前夜を思い出す。明日はばっちりのコンディションで望まなければならないのに、頭が休まらない。

大好きな彼の顔を思い浮かべる。

顔の熱を治めるみたいに、花柄の枕に顔を埋めた。

#眠れないほど

12/4/2022, 2:26:49 PM

出来ることなら一生現実は見たくないし、夢の中で漂っていたいし、課題なんてやりたくないし、何もかも手付かずな自分自身に目を向けたくない。
布団の中で緩い熱を享受し続けていたい。

けれどそんな訳にもいかないのが現実で。

毎朝起きて学校に行く理由も、勉強する理由も、友達の輪が存在する理由も、苦手な人に気を使う理由もわかっていないのに。
朝ごはんを食べるのも億劫。靴紐を結ぶのも億劫。友達の愚痴を聞くのも億劫。なにもかも、なにもかも

でも明日から学校行かなくて良いって言われても私は多分行くんだろうなと思う。学校にさえ行かなくなったら私はもうダメになる気がする。学校に行かない勇気もない、私は一体何ができるんだろう。

#夢と現実

12/3/2022, 2:44:23 AM

揺れ動いているあれはなんだ。

俺を炙り出そうとするあの光はなんだ。
煩わしい。鬱陶しい。お前は俺の世界に要らない。

「絶対助ける」

出来なかった癖に。
俺の手を離した癖に。
素知らぬ顔でまた俺に手を差し伸べるのか。
諦めろ。
もう放っといてくれ。
疲れたんだ。

俺はこの世界に漂ってる死骸でいいから。

#光と闇の狭間で

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