-太陽-
あぁ…
いかなきゃ
照りつける日差しに目が眩む
パンツスーツに身を包みヒールを履く
今日はあなたのハレの日
全ての人々を満面の笑みで迎える
笑みの裏で遠のきかける
暑い、寝不足の頭が痛む
プロであるからには全うする
バックヤードで下準備をする
幸福のお裾分けアイテムが鎮座している
ひとつでも渡すのを忘れたらどうなるだろう
笑顔の群衆に反射的に返す笑顔
その隙間に私からあなたにも爽やかな笑顔を
誰よりも、今日という日のあなたを悦ばせるために
ジリジリとしたアスファルトの午後
幸せいっぱいの新郎新婦を90度の礼で見送る
素晴らしい人生の門出の日
足元に落ちる街路樹の濃い陰がそよいでいる
お手伝いをさせていただき幸せでした
私の人生の1ページになりました
心からありがとうございました
宵闇、残務を切り捨てヒールを鳴らす
それはキューピッドの奏でる不規則なラッパにも似て
今宵あなたが見るのは輝くラッパの先の景色
リズムに乗って踊るあなたは私の惑星
さぁ、この部屋で素敵な夜を過ごしましょう
ねっとりとした扉の向こうを感じるほどに
立ち昇る熱が私を昂る
光には影?
そんな甘いことは言わせない
闇と輝く太陽を胸に抱かせるには最高の夜
惑星は太陽がなければ生きられない
さぁ
この扉を開いたら、あなたはもう私のもの
-鐘の音色-
はるか青空に、花の香りの立ちこめる
たくさんのひとの祝福もきこえる
私の瞳は先を歩くあなたの笑顔に引き寄せられ
返す瞳が物語るのは未来への約束
そんな夢を見て薄闇に目覚めると
スマホが薄く光っていた
「考えていたこともあったけど、もう応えられない。ごめん」
わからないふりをしていた
窓を開けると通り雨にそぼる草の香り
遠くにバイクのテールランプ
まだ昇らない陽を捉えようと東を覗き見る
まだ見ぬ新しい1日がやってくる確信
「立ち止まってくれて、まっすぐ見つめてくれたから。ありがと」
自転車がカラカラと小気味よい音を立てて通り過ぎてゆく
雨は上がったらしい
夢の余韻をたどりながら、窓に背を向ける
部屋を照らすほのかな光の中、スマホは何も言わない
お湯を沸かそう
スマホのアラームが鳴るまで、あと少し