花畑を見ると、考える。
『これらの花は誰に似合うかな』
タンポポなら、彼。
スミレやユリなら、彼女。
コスモスやチューリップなら、あの子。
薔薇の花なら、あの人。
向日葵は…
藤の花は…
ぼたんや椿は…
色々考えていると、ふと気付いた。
あんな所にシロツメクサ。
ああ、
あの花はきっと、ワタシね。
人の輪の中に馴染めない。
人目につかない所に咲く。
小さくて、弱々しい。
他の植物に押し潰されてしまう。
でも、いいの。
それがワタシだから。
花言葉って、色々ある。
幸福、約束、私を思って、なんていうのもある。
中でもワタシにぴったりの花言葉がある。
─『復讐』。
空が泣くって、どういうことだろう。
雷さまがどうとか、神さまがどうとかじゃなくて、
空が泣く。
理科で習ったことでは説明がつかないだろう。
なぜなら、
空に直接聞いたわけでは無いから。
と思いつつも、説明できてしまうんだなあ。
…。
でも、まだ夢は見ていたかったかな。
「今日は学校お休みしなさい。」
かーちゃんに言われた。
オレはガッツポーズしながらベッドに潜り込んだ。
ひとねむりしようかな。
オレは昼間にまた目を覚ます。
今日は思う存分ゲームができるし、ゴロゴロしてても怒られない。
なぜならオレは病人だから!!
頭は少し痛いし、体も寒いけど、ゲームはできる。
ベッドの下に隠していたポテチを貪り食う。
んー!美味い!
平日の昼間から、お菓子を食べられるなんてオレってツイてる。
熱が下がったら下がったで、学校には行こうと思う。
けど、この瞬間を楽しもう。
オレはまだ子供なんだから!
ピロン。
着信音だ。
寝ぼけた頭で思う。
「アイツからだな」
案の定、となりの家の、おんなじクラスのアイツからだった。
メッセージを開いてみる。
『熱、下がった?』
オレはスタンプを送る。
文字を打つのがめんどうだった。
ピロン。
返事が早すぎる。
『🍰ケーキ持っていくよ🍰』
オレはまたスタンプを送る。
ピロン。
『🍪クッキーとチョコレートも持っていくね🍫』
女子っていみわかんねー。
いちいち絵文字つかうなっての。
ピロン
ピロン
ピロン
ピロン
ピロン
ピロン
ピロン
『ねえ』
『きいてる?』
『むししないで』
『きずついた』
『はやく』
『かえしてよ』
『さよなら』
あなたって本当に面白い。
勝てないと分かっていても尚、私に向かってくる。
私、あなたのことを妹みたいに思っていたわ。
可愛くて、愛らしくて、大好きだった。
あなたも私を姉のように慕ってくれていたのなら、
それはとても嬉しいこと。
でもね、もう手遅れなの。
あなたは悪くない。
全く悪くないの。
何が私たちの間を隔てたのかは解らない。
けれど、ひとつ言えることがある。
これは全て仕組まれたこと。
仕方がないの。
本当は私もこうはしたくない。
だけど思うの。
どうせなら、大好きなあなたに、私の全てを受け止めて欲しい。
手加減なんて、きっとあなたは望んでいないでしょう?
だからね、私の命が燃え尽きるその時まで、
私と一緒に、あの時のように遊んでね。
あなたがしたいと思うことなら、私は喜んで相手をするわ。
だって、私はあなただけの『おねえちゃん』だもの。
朝に宿題の残りをやる習慣は相変わらず抜けない。
だから僕は3時くらいに起きる。
外はまだ暗くて、秋特有の肌寒さを感じる。
なんとか布団から這い出てノートを確認する。
ほとんど埋まっていない。
1日2ページがルールと知ってはいるものの、
やる気になれない。
何か飲んでから宿題の残りをやろう。
僕は思った。
階段を下りていく。
電気を点けたら多分、お父さんもお母さんも起きてしまう。
僕は小型の懐中電灯で足元を照らしながら進む。
いつも下りる階段が違う場所に思えて心細い。
いつもよりも長い距離に感じる。
そう思った矢先、台所に続く通路が見えた。
僕は恐る恐る台所に向かう。
人影がある。
人影はこちらを振り返る。
高校生の兄だった。
「何してるの?」
僕は訊ねる。
兄はレンジの中を指差した。
マグカップがある。
目を凝らしてみると、中身が分かった。
牛乳だろう。
「飲むの?」
僕はまた訊ねる。
兄は首を横に振った。
レンジがピーピー音を鳴らす。
温め終わったらしい。
僕は冷蔵庫を開けようとした。
が、兄が僕の肩をぽんぽんと叩いた。
そして、マグカップを指差す。
「僕が飲んでいいの?」
兄は頷く。
「アクは無い方がいいかな。」
僕は呟くように言った。
兄はレンジからマグカップを取り出すと、
つまようじでアクを取った。
僕の手にそれを握らせた。
「ごめんね…ありがとう。」
僕が言うと、兄は『じゃあな!』みたいな仕草をした後に
真っ暗な通路の方向に消えていった。
部屋に戻った僕は机に向かった。
兄の作ってくれたホットミルクを飲み飲み、ノートを埋める。
手が思うように動く。
頭もまわる。
僕は最後の意味調べを終えた。
『死人に口なし』
布団に潜り込み、目を閉じる。
やっぱり兄は変わっていない。
─生きていた頃と、全く。