※軽くBL要素がありますのでご注意ください。
「あのさ、あんた邪魔なんだよね。いつでも彼と一緒にいてさぁ……いい加減離れてくんない?」
ああ、うざったい。今日も、なにも知らない奴の相手をしないといけないなんて。
「ちょっと聞いてるの?」
「うっせーなぁ。離れるのはお前の方だっての。もしかしてお近づきになれるって期待してんの? ムリムリ」
顔が真っ赤になっていくさまはちょっと面白い。
「あ、あんたが彼のなにを知ってるってのよ! いい加減言わないでよ!」
「あ? お前こそなに言ってんの?」
こっちの声にびびったのか、思いきり唇を噛みしめたままで反論はなかった。誰も彼も度胸がなくてつまらない。
「あいつのことよく知ってんのはおれだけなの。おれ以外知る必要もないの。あいつもおれ以外のことはどうでもいいって言ってるし。嘘だと思うならあいつに訊いてみたら?」
これ以上の無駄話は必要ない。背中に投げつけられる罵倒の数々はただの雑音にしか聞こえなかった。
「お帰り。ごめんね、毎回面倒かけて」
「気にすんなって。お前だって同じ目に遭ってるだろ」
「僕はいいんだよ。ちょっと警告してあげてるだけだから」
彼は自分以外の人間には驚くほど冷淡だ。さっきの奴なんかその姿を見たらみっともなく泣き出してしまうんじゃないか?
「あーあ、今回の人生はなかなか落ち着かないね。学生だからかな」
「大学生になれば実家出れるし、二人で過ごす時間も増える。もう少しの辛抱だ」
自分たちは、前世からのつながりを保ったまま転生を何度も繰り返している。
今回の人生では、自分たちは「幼なじみ」という関係のようだった。
――次生まれ変わったときも、必ず二人で生きて、二人で死のう。
最初に交わした約束を、今も叶え続けている。
負担? そんなことは全然ない。
だって、彼は他の誰も変わることのできない、自らの命と同じくらい大切な人だから。
次生まれても、またその人と生を共にしたいと願うのは当然だろう?
彼からのキスに思わず笑ってしまう。ちょっと食むように唇を包むやり方は、何度生まれ変わっても変わらない。
「今回のおれ達は恋人同士じゃないだろ?」
「あれ、そうだったっけ?」
すっとぼけた声にまた笑う。まあ、今さらではある。
きょうだい、親友、仲間、恋人――いずれも、何度も経験してきた関係だけど、どれも正解で、外れでもある。
誰よりも大切な存在。
自分の世界に必要不可欠な存在。
それだけわかっていれば充分なのだから。
お題:二人ぼっち
ああ、これは夢だわ。
だって、「私」を見下ろす私がいるんだもの。それにこういう夢、もう見慣れてしまった。
「私」は無邪気にあの人と過ごしている。心から楽しいのだと、幸せなのだとわかる。
――私、あんな顔して笑ってたんだ。
彼と出会うまで、まともに笑ったことがなかった。笑うってなんだっけって、ばかみたいな問いかけを自分自身にしたりしていた。
あの人が私を変えてくれた。根気よく付き合ってくれた。
――彼も、嬉しそう。よかった。
夢でも、あの顔を何度も見てきたから信じられる。
「私」だけじゃなくて、私も隣に立ちたい。触れたい。
地上を目指して腕を伸ばしても、距離は全く埋まらない。声も、唇がぱくぱくと上下に動くだけで、出ない。
今回こそ願いを叶えるんだ。醒める前に早く、早く。
――ねえ、私もここにいるのよ。気づいてよ、私の名前をまた呼んでよ!
開けた目に映ったのは、いつもの天井だった。
また、私の願いはかなわなかった。
せめて、夢の中でくらい、あの人と自由に過ごさせてほしい。
もう……現実であの人に触れることはできないのだから。
お題:夢が醒める前に
胸が高鳴るイコール誰それにときめいた、なんて図式が当たり前とは限らない。
高鳴るというのは、過剰に心音が刻まれているというだけ。運動をした後だって高鳴るし、恐怖に怯えているときも高鳴る。プレッシャーのかかる予定を前にしたときだって高鳴るだろう。
短絡的に色恋沙汰と結びつけるのはナンセンスなんだ。
そう思うのに、あいつと目が合ったら変にどきどきしてしまう。話しかけるときも話しかけられたときも耳元で鳴っているように錯覚してしまう。
――認めたくない。あいつが原因で、苦しいほど心臓が高鳴ってしまうなんて。
お題:胸が高鳴る
「いやー、たまたまうまくいったんだよ。結果見るまではダメだと思ってたもん」
よく無邪気にそんなことが言える。単にめちゃくちゃ運がよかった、とでもアピールしたいのか?
こっちはお前の何倍も時間をかけて努力した。全力を注いだ。
なのに、蓋を開けてみたら勝ち組となったのはお前だった。
昔から運にめぐまれない。努力も実らない。
どうして努力を惜しまない人間に見向きもせず、運がよかったとヘラヘラ笑っているだけの奴に微笑むんだ。
運も実力のうち、なんて綺麗事で納得できる話じゃない。
運だけで人生が決まるなんて馬鹿げた話などあるわけがないのに、信じてしまいそうになるほど、今、苦しくて仕方ない。
お題:不条理
あなたを困らせたいわけじゃない。それに、ずっと会えないって決まったわけじゃないもんね。
だから泣かない。笑顔で見送るんだ。
「まいったなぁ。見送られる僕のほうが情けないね、こんなに泣いちゃってさ」
びっくりした。あなたもわたしと同じように、別れたくないって思ってくれていたの?
声が詰まってただ首を振る私の頭を、優しく撫でてくれる。
「そうだよな、絶対会えなくなるわけじゃないもんな。よし、僕は頑張って笑ってみせるよ」
不器用な笑顔だった。でも、もっと私が泣きたくなってしまう、縋りたくなってしまう笑顔。
だめ。もっと笑おう。これ以上、お互い悲しい気持ちだけになりたくない。
「ふふ、二人してなにやってるんだろうな。……ありがとう」
最初、私の前にやってきてくれたのはあなただった。
今度は私の番。どんな場所でも絶対、会いに行くから。
お題:泣かないよ