Ayumu

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 ああ、これは夢だわ。
 だって、「私」を見下ろす私がいるんだもの。それにこういう夢、もう見慣れてしまった。
「私」は無邪気にあの人と過ごしている。心から楽しいのだと、幸せなのだとわかる。

 ――私、あんな顔して笑ってたんだ。

 彼と出会うまで、まともに笑ったことがなかった。笑うってなんだっけって、ばかみたいな問いかけを自分自身にしたりしていた。
 あの人が私を変えてくれた。根気よく付き合ってくれた。

 ――彼も、嬉しそう。よかった。

 夢でも、あの顔を何度も見てきたから信じられる。
「私」だけじゃなくて、私も隣に立ちたい。触れたい。
 地上を目指して腕を伸ばしても、距離は全く埋まらない。声も、唇がぱくぱくと上下に動くだけで、出ない。
 今回こそ願いを叶えるんだ。醒める前に早く、早く。

 ――ねえ、私もここにいるのよ。気づいてよ、私の名前をまた呼んでよ!

 開けた目に映ったのは、いつもの天井だった。
 また、私の願いはかなわなかった。

 せめて、夢の中でくらい、あの人と自由に過ごさせてほしい。

 もう……現実であの人に触れることはできないのだから。


お題:夢が醒める前に

3/21/2023, 8:11:34 AM