水平線から昇る光を見たとき、私は力強くてきれいだと告げた。
隣のあなたはただ眩しすぎると告げた。
濃い藍色の空に浮かぶ淡い光を見たとき、私はきれいだけどどこかさみしいと告げた。
隣のあなたはどこか自分に似ていると悲しそうに笑った。
初めて一緒のベッドで眠ったとき、私は幸せで胸がいっぱいだとつい泣いた。
隣のあなたはまだ人のぬくもりに慣れていないとぎこちなさの含んだ苦笑をこぼした。
わたしとあなたが見ているこの世界は、まだまだ大きな隔たりがあるんだね。
負の感情を生むばかりじゃない、すてきなものがいっぱいあるよと頑張って伝えて、あなたの笑顔がもっと増えますように。
お題:この世界は
『っどうして、どうしてどうして!!』
ある人からはナイフで切りつけられるように何度もあびせかけられ、
『どうして?』
ある人からは正反対の柔らかい声に誘われて答えても何度も否定され、
『どう、して……?』
ある人からは偶然その場に居合わせたばかりにまるで犯人のような扱いをされ、
その四文字はいつしか、心を食い尽くそうと常に待ち構えるけものとなった。
成長すれば心身とも強くなれると思い込んでいた。
聞く機会も減ると勝手に期待していた。
「どうしてこうなったかわかる?」
「ふふ、どうしてだと思う?」
やめて。
その四文字をむやみに振り回さないで。——縋りたくないのに縋りたくなってしまう。
どうして、こんな目にあわなきゃいけないの!
お題:どうして
※BL描写があるので苦手な方はお気をつけください。
目が覚めたら、目の前で好きな人が笑っていた。
「おはよう。よく寝れたか?」
「う、うん」
「そうか。朝メシできてるから早く顔洗ってこいよ」
頭を軽く撫でると、柔らかい笑顔のまま部屋をあとにした。
どうして彼がここに?
というか、やたら空気が甘いような……?
半分夢の中にいるような心地でとりあえず居間に向かう。
「うわ、めっちゃうまそう」
シンプルながら空腹を誘ういい香りの和食たち。そういえば彼は料理が得意な方だった。
「んじゃ食おうぜ」
いただきます、と二人で手を合わせる。荒っぽいところも目立つけど、こういう丁寧な一面もあって、なかなかにくすぐられるんだよね。
「今日はどこでデートすんだっけ?」
口に運んだ卵焼きを吐き出しそうになった。
「で、でーと、って!?」
「あ? なに初めてみたいな反応してんだよ」
するに決まってる、だって君とおれは
「とっくに恋人同士だろ? 俺たちは」
――そう、そうだったね。
ダメ元で告白して、夢みたいだったけど、受け入れてもらえたんだった。
ばかだな、なにを忘れてたんだろう。
「ごめん、まだ寝ぼけてたみたい。そうそう、新しくできた水族館があるんだけど知ってる? よかったらそこでどう?」
「出た、屋内観光スポット好き」
「……ダメ?」
「バーカ、いいに決まってんだろ。じゃ早く支度しようぜ」
今日はおれが先に目が覚めたらしい。
隣で静かに寝息を立てている彼に軽く口づける。
――うん、こんな朝も、何度も経験してきた。
「……まって」
ベッドから下りようとした瞬間、腕を掴まれた。
「お、起きてたの?」
「お前のせいで目が覚めた。なんてな」
背中に再び柔らかい感触が戻る。自分と同じことをされる、と思ったら首筋から軽く濡れた音が響いてぎょっとした。
「まだいいだろ?」
「で、でも朝ごはん作らないと。腹減ったし」
「俺も減ってるけど、お前といちゃいちゃしてたい」
どストレートに、しかも耳元で囁かれて、折れない恋人なんてきっとどこにもいない。
身体中の力を抜いたとたん、裾から少しかさついた感触が侵入してくる。少なからず午前中は潰れたも同然だ。
「いいじゃねえか。明日も明後日もその先も、ずうっと休みだろ? 二人きりの時間はたっぷりあるんだ、焦ることはないさ」
「……うん。そう、だったね」
ああ、なんて幸せなんだ。
どうしてこの幸せを一瞬でも忘れていたのか、本当にわからない。
苦しい苦しい片思いが報われての、いまなんだ。
――めを さまして!
ばかなことを言わないで。
おれにとっては、「ここ」が現実なのだから。
お題:夢を見てたい
「ふざけないで」
一段階低く放たれた声に息をのむ。普段は穏和な彼女が本気で怒っている証だ。
「本気で言ったの?」
なにが気に障ったのだろう。
「ずっとこのままでいたいって、本気なの?」
怯えながらも肯定した。例えば嫌い同士でいようとか、そんなネガティブな意味じゃもちろんない。君と僕はとても仲良しなんだから。
「……ずるい。ずるいずるい」
一転して弱々しい声が、互いの間に静かに響く。
強風で揺れる湖面のような瞳がこちらを捉えた。涙をこぼす前だと、充分すぎるほどに学んできた。昔からの自分の弱点のひとつだ。
「わたしの気持ち、まだ弄ぶ気なの?」
伸ばしかけた手が止まる。
「その気がないならわたしの前から消えて。わたしは、とっくに覚悟を決めてる」
赤の他人か、家族になるか。
中間の選択は取れない。少なくとも、彼女の中には存在しない。初めて告白を受けたときから宣言されていた。
悪いのは誰か、もう何度も身にしみている。彼女の優しさに甘えて、ひたすらに目を背けつづけてきた。
「なにが不安なの? 不満なの? それともわたしが勝手に思い上がってるだけ?」
まだ覚悟が足りない。未来に臆病になっている。それを素直に吐露する勇気もない。だけど離れたくない。
――本当に、いつまでこのままでいるつもりなんだろうね。
今度こそ愛想をつかされると思いながらも、みっともなく縋るのだ。
お題:ずっとこのまま