Ayumu

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「ふざけないで」
 一段階低く放たれた声に息をのむ。普段は穏和な彼女が本気で怒っている証だ。
「本気で言ったの?」
 なにが気に障ったのだろう。
「ずっとこのままでいたいって、本気なの?」
 怯えながらも肯定した。例えば嫌い同士でいようとか、そんなネガティブな意味じゃもちろんない。君と僕はとても仲良しなんだから。
「……ずるい。ずるいずるい」
 一転して弱々しい声が、互いの間に静かに響く。
 強風で揺れる湖面のような瞳がこちらを捉えた。涙をこぼす前だと、充分すぎるほどに学んできた。昔からの自分の弱点のひとつだ。
「わたしの気持ち、まだ弄ぶ気なの?」
 伸ばしかけた手が止まる。
「その気がないならわたしの前から消えて。わたしは、とっくに覚悟を決めてる」
 赤の他人か、家族になるか。
 中間の選択は取れない。少なくとも、彼女の中には存在しない。初めて告白を受けたときから宣言されていた。
 悪いのは誰か、もう何度も身にしみている。彼女の優しさに甘えて、ひたすらに目を背けつづけてきた。
「なにが不安なの? 不満なの? それともわたしが勝手に思い上がってるだけ?」
 まだ覚悟が足りない。未来に臆病になっている。それを素直に吐露する勇気もない。だけど離れたくない。
 ――本当に、いつまでこのままでいるつもりなんだろうね。
 今度こそ愛想をつかされると思いながらも、みっともなく縋るのだ。

お題:ずっとこのまま

1/12/2023, 4:25:43 PM