※BL描写があるので苦手な方はお気をつけください。
目が覚めたら、目の前で好きな人が笑っていた。
「おはよう。よく寝れたか?」
「う、うん」
「そうか。朝メシできてるから早く顔洗ってこいよ」
頭を軽く撫でると、柔らかい笑顔のまま部屋をあとにした。
どうして彼がここに?
というか、やたら空気が甘いような……?
半分夢の中にいるような心地でとりあえず居間に向かう。
「うわ、めっちゃうまそう」
シンプルながら空腹を誘ういい香りの和食たち。そういえば彼は料理が得意な方だった。
「んじゃ食おうぜ」
いただきます、と二人で手を合わせる。荒っぽいところも目立つけど、こういう丁寧な一面もあって、なかなかにくすぐられるんだよね。
「今日はどこでデートすんだっけ?」
口に運んだ卵焼きを吐き出しそうになった。
「で、でーと、って!?」
「あ? なに初めてみたいな反応してんだよ」
するに決まってる、だって君とおれは
「とっくに恋人同士だろ? 俺たちは」
――そう、そうだったね。
ダメ元で告白して、夢みたいだったけど、受け入れてもらえたんだった。
ばかだな、なにを忘れてたんだろう。
「ごめん、まだ寝ぼけてたみたい。そうそう、新しくできた水族館があるんだけど知ってる? よかったらそこでどう?」
「出た、屋内観光スポット好き」
「……ダメ?」
「バーカ、いいに決まってんだろ。じゃ早く支度しようぜ」
今日はおれが先に目が覚めたらしい。
隣で静かに寝息を立てている彼に軽く口づける。
――うん、こんな朝も、何度も経験してきた。
「……まって」
ベッドから下りようとした瞬間、腕を掴まれた。
「お、起きてたの?」
「お前のせいで目が覚めた。なんてな」
背中に再び柔らかい感触が戻る。自分と同じことをされる、と思ったら首筋から軽く濡れた音が響いてぎょっとした。
「まだいいだろ?」
「で、でも朝ごはん作らないと。腹減ったし」
「俺も減ってるけど、お前といちゃいちゃしてたい」
どストレートに、しかも耳元で囁かれて、折れない恋人なんてきっとどこにもいない。
身体中の力を抜いたとたん、裾から少しかさついた感触が侵入してくる。少なからず午前中は潰れたも同然だ。
「いいじゃねえか。明日も明後日もその先も、ずうっと休みだろ? 二人きりの時間はたっぷりあるんだ、焦ることはないさ」
「……うん。そう、だったね」
ああ、なんて幸せなんだ。
どうしてこの幸せを一瞬でも忘れていたのか、本当にわからない。
苦しい苦しい片思いが報われての、いまなんだ。
――めを さまして!
ばかなことを言わないで。
おれにとっては、「ここ」が現実なのだから。
お題:夢を見てたい
「ふざけないで」
一段階低く放たれた声に息をのむ。普段は穏和な彼女が本気で怒っている証だ。
「本気で言ったの?」
なにが気に障ったのだろう。
「ずっとこのままでいたいって、本気なの?」
怯えながらも肯定した。例えば嫌い同士でいようとか、そんなネガティブな意味じゃもちろんない。君と僕はとても仲良しなんだから。
「……ずるい。ずるいずるい」
一転して弱々しい声が、互いの間に静かに響く。
強風で揺れる湖面のような瞳がこちらを捉えた。涙をこぼす前だと、充分すぎるほどに学んできた。昔からの自分の弱点のひとつだ。
「わたしの気持ち、まだ弄ぶ気なの?」
伸ばしかけた手が止まる。
「その気がないならわたしの前から消えて。わたしは、とっくに覚悟を決めてる」
赤の他人か、家族になるか。
中間の選択は取れない。少なくとも、彼女の中には存在しない。初めて告白を受けたときから宣言されていた。
悪いのは誰か、もう何度も身にしみている。彼女の優しさに甘えて、ひたすらに目を背けつづけてきた。
「なにが不安なの? 不満なの? それともわたしが勝手に思い上がってるだけ?」
まだ覚悟が足りない。未来に臆病になっている。それを素直に吐露する勇気もない。だけど離れたくない。
――本当に、いつまでこのままでいるつもりなんだろうね。
今度こそ愛想をつかされると思いながらも、みっともなく縋るのだ。
お題:ずっとこのまま