俺は誰よりもけん玉が得意だ。
俺よりけん玉が得意なヤツなんていねー。
俺はけん玉がうまいから小学校では超人気者だった。
だから中学に入ったときにけん玉部を作った。
いろんなヤツが面白がって入って来て、俺はそいつらにけん玉を教えてまわった。
その中にアズマってヤツがいた。
そいつ、けん玉めちゃくちゃヘタ。
ぜんぜんできねーの。
しょうがねーから俺がずっとそばで教えてやった。
「アズマくんうまーい!」
「わたしにも教えて!教えて!」
一週間もしたら、アズマはけん玉が得意になった。
「いいよ、順番ね」
アズマはいつも笑ってそう言う。
でも俺のほうが上手いに決まってる。だってアイツはまだ世界一周もできないし。
でも俺のところには誰も来なかった。俺が教えてやろうとしてもみんなアズマのところに行くから。
俺のところにくるのはたったひとりだけだった。
「ね、ケンくん、ここの乗せ方なんだけど…」
「うるせえ」
「え?」
アズマはきょとんとした顔をした。
「アズマにはもう教えねー」
俺はそっぽむいて言った。
「なんでよ」
アズマの声が震えているのがわかった。泣いているのかもしれない。
「教えねーったら教えねーっ」
俺は顔を見ないようにアズマの横を突っ切った。
【誰よりも】
これが無事に届いていることを願う。
今や日本の郵便制度はめちゃくちゃだ。もし違う誰かが受け取っていたなら…まあそれはそれでいいか。
俺は今台湾…ああ、10年前はまだ中国か…。
そこの軍事キャンプにいる。
10年前と言えばお前はつい最近までシャーペン持って戦ってた。そんな頃だろう。
…10年後には機関銃を持って戦ってるよ。
ともかくさ。
やりたいことはやっとけよ。
【10年後の私から届いた手紙】
「これ、義理だから」
そう言ってアオイは俺にチョコを手渡した。
「義理だからって…まあそうだろうけど」
俺は半ば困惑しながらも受け取る。
一体どういう風の吹き回しだ?
「お前からかってんのか?」
俺はとっさに問いかけた。
「からかってねーよっ!とにかく義理!義理だからな!」
アオイはそう言って走り去ってしまった。
一体どういう風の吹き回しなのか。
俺は立ち尽くしたままアオイの後ろ姿を眺めることしかできなかった。
バレンタインってのは、女が男にチョコをあげる日だとばかり思っていたんだがな…。
【バレンタイン】