キンモクセイ

危なかったー
絶対誰かが私を守ってくれている
そう確信した
何故なら今日もそうだったからで…
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東京駅の丸の内南口でのこと
改札を抜けた前方に階段が見えた
気をつけなくては
でも5mは先だわね
まだ距離があるし大丈夫
とりあえずナビでお店の方向を確認しなきゃ進めない
そんな事を思いつつ画面と地面を交互に見ながら歩いていた

あれちょっと待て、この広場の景色と建物なんだか…気になって立ち止まった
良かったここで合ってた
ホッとして何気に足元をみたら　
なんと！階段の縁ギリギリで立ち止まっている自分がいた
我ながらビックリ
つま先に数センチの余地もない

また怪我せずに済んだ
これまでにも似たようなことが何回もあった
段差や階段ではしょっちゅう、ガラス戸、運転中の急ブレーキにも
間一髪の不思議がたくさん

きっと私には守護霊がいてくれるんだ
あの時一瞬キンモクセイの香りが過ぎった
その木は実家にも我が家にもある常緑樹で
ふわっと包み込むような甘い芳香が好き
…と言うことは両親かしら…
誰かの香水だよなんて言わないで
見えない存在に手を合わせたい気分なの今は

行かないでと、願ったのに

あの時のあなたは
行くも地獄退くも地獄
ならば
行かないで私とここに居て
そう願ってから20年

私はあなたを絶望のどん底から救い出したかった
蜘蛛の糸のように頼りない私だけれど
その先の光を見てもらいたかったの

「あの日から楽な呼吸をしたことがない…」と
今朝ポツリと言ったあなた
私に「生きたまま絡め取られてしまった…」と
最後の力を振り絞るように弱々しく
喧嘩の後でのことだった

「そんならさっさと手放してあげるわよ」
思いっきり蜘蛛の巣ジェットをプッシュした
彼の背中めがけて何度も何度も
自分でも予想だにしない激高で涙が溢れる

「いやー参ったまいった
弱ったふりしたのが逆効果だった？
うかつに冗談も言えないやー
命懸けで仕返しして来るもんな」

どの口が言ってるのよ…言葉にならずにしゃくりあげた

凍える朝

星野道夫さんの「アラスカ永遠なる生命」に
凍える朝の一枚だと思える写真があった
氷の世界に生きるナヌーク
その北極熊は瞑想するかのように静かに万物を受け入れている…ように見える
生き物の日常では命の循環の中で繰り返される一瞬を捉えたに過ぎない写真

熊が悟り人のように見えるのはエスキモーと同じ厳しい自然を体験した星野さんのフィルターを通しているからなんでしょう
凍える朝の中でなんて神々しい

光と影

光と影はこんな感じです
明るさと温度を人は感じるものですから
こちらの照明はいかがでしょう

実はね私、明るさには眩しさを
暗さにはただ暗いとしか…
なんて言いますか、調光力が極端に落ちたなって思うんですよ

それに光のあるなしの温度差ですが
限りなく鈍くなってきましたよ
信じられないでしょうが
目に加えて、肌センサーも誤作動し始めたんでしょうかね

そうですかわかりました
高齢者の方専用のオーダーメイドの照明っていうのがあるんですが、体験なさいますか？
眼科医と共同研究している最先端の物で
お値段は高くなりますがシニア世帯の方にご好評をいただいています

別棟へとスタッフが案内するという
欲しい光が手に入るかも
だけどね一瞬、闇にも似た影がちらついた
そんなの聞いたことないし新手の詐欺じゃないかしらって

ねえ、あなたならどうする？
予約は一年先まで埋まってて
たった今キャンセルが出たところなんだって
あなたはラッキーな方だって言うのよ

そして、

月日は流れ
姿形は年相応に経年変化　
一瞬身構えそうになる
互いにね　(笑)

何十年ぶり　5年ぶりかなあ　変わらないね
この一言で50年でも70年でも巻き戻れちゃうんだよね彼女とは
幼馴染はいいね

そして、
互いの人生を早送りしながら
泣き笑い

そして、そして、…

そして、
会う度に、今を全力で楽しんでいるよと
前進している姿を見せてエールをくれる
決して恵まれた健康体じゃないのにね
老いて立ち止まりがちな私を
前へ前へと引っ張っていく

そう言えばせっかちな彼女に幼稚園の頃から
手を引かれていた私

笑顔で苦労を一蹴するパワーは健在で
笑い声は更にアップしたようだ
歌舞伎の早替わりのようにいろんな顔を次々見せてくれる
老いても輝いていて魅せられてしまうよ

そして、一つ願うなら
天国への階段を速足で駆け上がったりしないでね
お互い高齢者だしもう少しペースダウンしてもいいんじゃないかな　どう？
まあ無理か
あなたの性格的には