遠雷轟く
苦虫を噛み潰したような夫の顔
一品多い手料理を前に
修行僧の夕餉
君と飛び立つ
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ありがとう
その言葉だけで十分幸せよ
飛び立つ翼もなく
行き先も持たないままじゃ
ファンタジーと同じよ
現実味ないからね
とりあえずそう返すしかないじゃない
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アハハそう言うと思った
はいどうぞ
これみて
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うわっ
これっ
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そうだよ
マイルーツは佐渡島
代々受け継がれてきたタライ漁
海女をみくびってもらっちゃ困る
男たちや殿様の監視下に置かれていた頃にだって女には意志があったんだ
竜宮城は彼女らの秘密基地
たらい舟はさながら亀ってとこかな
幼かった私が初潮を迎えた晩に
大ばばが声を潜めて聞かせてくれた話は
この島の女達だけの秘密
男に頼らず自由を得られる宮があると…
長い時の流れの中で
女が自立し女を伴侶にする世が来て
とは言え まだまだ息苦しさが残っているのも事実
私は君と飛び立ちたい
そのための翼は150年前から粛々と準備されて来た
はいこれ
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真剣な眼差しで古く短いオールを差し出した彼女
受け取った瞬間のドキドキ
エンゲージリングってこんな感じかも
それにしても2人ともダイビングで名を馳せた者同士よ
これを使うの?って言いかけて言葉を失った
さっきまでの年代物のたらい舟が
いつの間にか金色の光を放っている
彼女は俯瞰するようにそれを見据えていた
肩口で切りそろえられた髪がうねるように乱れかかり彼女の表情を覆ってしまっている
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長い間この風と潮を待っていた 気がする…
行き先は
海女の秘密の宮
あの夜何故だか…きっと忘れないはずと確信した話が ようやく五感を伴って蘇った
君と飛び立つ準備は整った
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彼女はそう言い
私の手を強く握り締め
ゆっくりと舟を跨いだ
言葉通りの覚悟の表情だった
きっと忘れない
このお題が何となくしっくりこない響かない
どうしてだろう?
そこで
きっと を調べてみた
※自分で予想して確信する/決意すること
※推量の表現と一緒に使うことが多い
きっと〜だと思う
だろう
でしょう
だよ
はずだ
に違いない
そうか!なるほどね!
きっと忘れない…に
違和感をもったのは推量の表現を省略していたからだと気づいた
そうすることで書き手の自由度を高めてくれていたんだね
自分の予想が確信に変わった
きっと忘れないはず
より自分自身に引き寄せた表現を加えてみたら
イメージ湧いてきたーさあ書くぞ!
足音
体重6.5キロ
左右に揺れる貫禄の腹
短い手足はほぼマンチカン
たるたるのルーズスキンは床上4センチに迫り
垂れた腹と短足の相乗効果で
安定感抜群の低い重心の持ち主 オレの相棒
階下では
ドッドッドッ
猫にあるまじき足音を立てて奴が歩いている
ドン
微動だにしない着地音
決まった〜!の声が頭をよぎる
ドッドッドッ
奴が2階へやって来た
ルーティンの始まりだ
まだ5時なんだけど〜容赦なし
オレが起き上がったのを見届け
促すように階段へ向かう
トト トト トト
逸る心が足音を変える
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10年前
『お餅』って名付けていたら
今じゃ『鏡餅』って呼ばれてるぞ
「レオ」聞いてるか?
まあオレよりマシだぜ
「太史」
タイシがフトシだもんな(笑)
奴に続いて階下のキッチンへ
ドスッ ドスッ ドスッ
終わらない夏・休みだったら大歓迎だ
でも母さんの悲鳴が聞こえる気がする
勘弁してよ
朝ごはん昼ごはん晩ごはん それにオヤツ
終わりのない洗濯物
山のような宿題
夏休みのくらし・ドリル・工作・感想文おまけに自由研究 選択の余地なしのてんこもり
それも4人 4人4色でてんやわんや
令和の妻は
パートの掛け持ちでてんてこ舞いだよ
合宿夏期塾代サマーキャンプに行くんだって
稼がなきゃね私達
今晩はあなたが食事担当だからよろしく
親子の時間が休みと反比例して減っていく
立場逆転親ともなると
短い夏休み大歓迎だ
早く学校始まってくれー