設定したアラームのだいたい30分前に起きる。
その頃にはまだ隣には静かに寝息を立てるあなたがいて。
早起きは三文の徳だとそのままうつ伏せで寝る耳を眺める。
そのうち遠くの方で起床を告げる音に寝ていたことを知り、身動いだ頬にキスをして。
名残惜しげにベッドを抜け出す。
歯を磨き、洗い物は洗濯機に任せ、昨日のうちに用意した朝ごはんをレンジで温めながら、ケトルを沸かす。
まだ夢の中にいるのに、あなたは僕が近づいたことをに気付いて手を引かれ、再び腕の中。
緩やかな『日常』
また30分後の未来まで。
小さい頃から初めてのことでも、なんでもわりと要領良く出来て。
挫折とか努力とか、自分とは関係ないことだと。
特別上手に出来なくても、ああ、こんなもんか、とすぐ切り替えてきた。
そんな僕にも〈もっと〉と強請れるものが出来て。
『あなたがいたから』この景色があって。
そして自分でも描いたことのない、未来がある。
やあ、聞こえるかい。幼い僕。
まさか僕をこんなにも楽しませてくれる人が出来たよ。
ぽつん。ぽつん。
窓を打つ雨が徐々に強くなっていく。
「…今日は晴れるって言ってたのになぁ」
昼休み。
賑やかな教室の空気にもついていけなくて、だらりと机に上半身を投げ出す。
ずっと、ずっと。
放課後を楽しみにしていただけにやる気を無くしていくのを感じて、スマホ画面を何度も眺めてしまう。
学校が終わったら駅まで迎えに行って、甘いのが好きだから新商品が出たオープンカフェに行って、そのまま紫陽花が綺麗な公園にも寄って、それからどこへ行こうか。
なんて、なんて。
考えていたプランは全部屋外がメイン。
「…どうしようかなあ」
考えている間にあっという間に放課後。
声が良いから歌声とか聞いてみたいなーなんてぼんやり考えたら。
「…あれ?なんで…?」
「サプライズ的な?」
いたずらが成功したみたいに笑う、門の前に待つ愛し子。
デートプラン、まずは『相合傘』からスタートかな。
ひらり、ひとつと。またひとつ。
淡雪のように、桜花のように。
ひたして、みたして。
『落下』傘。
底なし沼に溺れるような恋であれば。
息することすら諦めたのに。
じわり、にじんで、あふれてく。
消えるような、色めくような。
こぼれて、ふたして。
恋煩い。
闇夜にいざなう黒猫の戯れであれば。
後ろを振り返ることもなし。
どろり、ひろがる。あめひとつ。
においもいろも、うらづけて。
焦がれて、のばして。
盲目に。
すべてを投げ出すほどの想いすらも。
昇華するすべを願うばかり。
たかが、と線引きをしていた。
この先なんて、自分には何もなくて。
そんな自虐じみた謙遜も自分では踏み込めないのを知っているからか。
気持ちは向いているのに。
少々強引に手を引いて、今。
目を焼かれる、あまりにも鮮やかすぎる1コマ。
きっとこのためにここにいるのだと思い知らされる、熱。
ひとりでの満足も、こうして充足に変わって。
手を引いたつもりが惹かれている。
あの時声をかけて、救われた。
きっとこれも枝分かれした『未来』のひとつ。